2020-05-11

11年目からの英語

遡ること9年ほど前、10年という短期間で英語をマスターする方法を書いた。未だに読まれているらしいロングセラーである。ついさっき再読したが、書いてある内容は今でも有効だと思う。今ならYouTubeにもたくさんコンテンツが上がっているし、Zoom越しに英会話のレッスンなど受けられるので、ツールはより充実しているので、英語を学んでいる人は引き続きがんばってほしい。

この9年の間、僕も当然のように年を重ね、英語を9年分使ってきた。先日Pagefulなるサービスで、英語の勉強方法について質問を受けたので、良い機会だからこの9年分の学びをまとめてみる。内容的には完全に英語が既に話せる人向けだが、「英語」を「日本語」に置き換えても通ずる話だ。

易しく話す

この9年で一番変わったこと、それは英語をより易しく話すようになったことだ。相手の英語力に合わせるというような欺瞞ではなく、誰が相手であろうと、とにかくシンプルに話すように心がける。たとえばアメリカの英語が母語ではない人には、いわゆる慣用表現や、アメリカ特有の言い回し、アメリカのポップカルチャーの知識を前提とした表現は通じにくい。通じにくい可能性があるなら使わない方が良い。

逆にネイティブだからといって語彙が豊富とは限らないから、むやみやたらに難しい表現は避けるようにする。そうなると、少ない語彙で、慣用表現の多用を避ける、というハードモードに突入するのだが、誰にでもわかる比喩表現を使ったりすることで、いくらでもわかりやすさは追求できる。

結果的に昔よりも仕事で英語を書くスピードが落ちた気もするが、その分相手に意図が伝わりやすくなっていると思いたい。

優しく聞く

この9年、仕事を通じ、英語を母語としない様々な国の人と仕事をしてきた。たぶん400回くらい飛行機に乗っただろうか。そして津々浦々の飛行場に降り立つたびに、館内放送から案内標識まで、とりあえず英語「も」使ってくれていることに安堵し、感謝してきた。

世の中は英語に優しい。だからこそ、その優しさに応えるべく、優しい聞き手であることを勧める。

自分の英語が上手になってくると、相手の比較的下手な英語が歯痒く感じることも出てくるだろう。そういう時こそ、黙って相手の言わんとしていることを最後まで聞くようにするといい。もちろん我々は人間なので、バカにしたくなることも、一を聴いて十を知ったかぶってしまうこともある。ただ基本的な姿勢として、そこにいるのは「英語ができる自分」ではなく、「英語を話してくれている相手」だということを忘れない方が良いと、自戒もふくめてのアドバイスである。

僕はよく中南米の人と仕事をするのだが、彼らは決まって質問(questions)のことをdoubtsという。英語のニュアンス的には「不審点」で、はじめて“I have some doubts”とか言われた時にはギョッとしてしまった。が、いったん「質問があります」という意味だとわかれば、あとは僕が脳内変換をすれば良いだけの話なので、以後彼らのdoubtsに答え続けている。果たしてこれが、中南米のスペイン語・ポルトガル語話者によくある傾向なのか、それとも僕の取引先だけの話なのか、未だに謎である。

幅広く読む

なんだかんだ言って、やはり英語を読み続けることは大事だ。特に幅広く読むことが大事だと思う。ぼくはこの数年、意識的に自分と大きく意見や経歴が違う人たちの書いたものを読むようにしている。これは自分の思考と相手の論点を摺り合わせるという目的もあるが、相手がどういう風に英語を使うのか知る、いい勉強にもなる。どちらかと言えば僕は現実的リベラルだと思うが、意識的に大衆主義・保守の記事を読むせいか、びっくりするほど的外れな広告をGoogle先生が連れてくることがある。

易しく話し、優しく聞き、幅広く読む。これはどの言語でも、習熟した人が常に心に留めておくべきなことだと感じている。

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