2022-12-31

2022年に読んだ本

参考:2021年に読んだ本

去年同様、*が付いているのが、読んだ本、それ以外はオーディオブックで聴いた本。特にオススメの本には☆をつけた。

近年珍しい年間50冊越え。やはり仕事が落ち着いて自由な時間が増えた影響は大きい。しかしなんだかんだ中国語の本は読めなかったので、来年こそ読む。

  • *残像に口紅を by 筒井康隆:去年TikTokで再発見された1989年作の実験的小説。音が消えていく中、段々と表現がぎこちなく難読化していく。肌感、仮名が半分なくなっても十分に読める感じ。「器官と器官の劇甚な摩擦とバルトリン氏の助力の倍加」がツボるならお勧めです。
  • *あ・うん by 向田邦子:著者唯一の長編(といっても200頁)。戦中の二つの家族の生き様を描いた話。稀代のシナリオライターはやっぱり話の構成が上手だし、彼女の描く男たちはどこか情けなく、どこか憎めず、リアリティに溢れている。ここまで女を描ける男っているのかな。
  • *Dark Money by Jane Mayer:TNYの記者を長年勤める筆者が、Koch兄弟を中心に超富裕層による政治献金とその絶大な影響力について書いたルポタージュ。冗長だけど文章はさすがMayerという感じ。一次情報が少なく恣意的な部分もあり、ノンフィクションとしては若干物足りず。
  • *国家の罠 by 佐藤優☆:10年くらい前に団長から勧められた本をやっと読んだ。最後の30ページで大笑いからの涙腺ジワり。著者と西村検察官(現霞ヶ関公証役場公証人)のやり取りとかドラマにうってつけだが、テーマ的に国家の中枢に近すぎるんだろうか。
  • *Frog by Mo Yan☆:ノーベル文学賞授賞作家莫言の長編。中国現代化を背景とした一人っ子政策と違法妊娠がテーマなのだが、最初の330ページはテーマが重すぎて暗くなる一方だったが、最後の50ページで全て回収されて暗澹な気持ちになりながらも、その構成力には感銘を受けた。
  • Startupland by Mikkel Svane & Carlye Adler:Zendeskの参考資料として読んだのだが創業ストーリーがリアルすぎて泣きそうになった。こういう美化されてない起業ストーリーはもっと世に広まってほしいと思う。 日本からグローバル狙えるのか不安…みたいな起業家こそ是非。
  • Man & God at Yale by William F. Buckley:戦後アメリカ保守の重鎮Buckleyが24歳の時に書いた母校エールの批判。割と保守の間では読み継がれているらしい。まあ大学の教授陣の思想が偏っていて、結果的に教育内容も偏るよねって話を、めっちゃスノッブに書いた本。
  • Why We Make Things & Why It Matters by Peter Korn:UPennを卒業後なぜか大工を経て家具職人になり、ついには家具職人学校も創立した人の自伝。弁護士の父というナチュボン設定に最初は白けつつも、20代と40代で癌を患うなど中々壮絶に苦労しており色々と考えさせられた。
  • The Sleepwalkers by Christopher Clark:近代欧州史の権威による第一次世界大戦の原因を探った大作。聞き流した感じだったので時間を見つけて熟読したい。取り敢えずわかったのはロシアのウクライナ侵攻をサラエボの凶弾に例えるのは無理があるということ。例える人は素人。
  • *R62号の発明・鉛の卵 by 安部公房:本人は嫌がったそうだがカフカとの共通点を感じざるを得ない。研ぎに研いだ最初の一文で世界観を切り開くところとか。若干の読みづらさが心地よい。著作をあと数冊は読んでみようと思えた短編集だが、表題作2篇はまあまあかな。
  • *失敗の本質 by 戸部 良一 et. al.:この30年くらい語られる「ここがダメだよ日本企業」の出発点。国民や組織の気質はそうそう変わらず、戦略策定においてはあらゆる尺長で時間の側面が軽視されやすいという感想。帰納的な日本人読者のための帰納的な構成がメタにツボった。
  • *仁義なきキリスト教史 by 架神恭介:@y0k1mura 氏のオススメでキリスト教の輪郭を掴むために読んだ。イエスの誕生からカトリックの20世紀初頭ファシスト支持までを時空を飛び越えて広島任侠の世界に投影した意欲的歴史的フィクション。ちゃんと勉強した後再読したい本。
  • *野火 by 大岡昇平:キリスト教徒が書いた小説もいくつか読んでみるかということで手にとった。テーマに圧倒されがちだが、写実的かつ整った文体も割と好き。 ベルクソンに言及するシーンでは「熱帯雨林で腹すかした兵士がそんなこと考えるか」とはツッコみたくなった。
  • God Is Not Great by Christopher Hitchens:宗教について読むなら反神論者の代表作も。Audibleで聴く特典として朗読が故Hitchens本人。 まあ彼的にNot Greatなのは神というより組織的宗教活動なのかなと。“No child's behind left”はまさにHitchens節で不謹慎にも吹いた。
  • *教養としての世界宗教史 by 島田裕巳:書店で見かけた時「教養としての〜」という枕詞が鼻についたが、宗教は本当に知らないことばかりなので購入。概要書としてはよくまとまっているのではないか。ユダヤ教〜キリスト教〜イスラム教の繋がりあたりはよく書けていた印象。
  • *万年筆インク紙 by 片岡義男:万年筆とインクと紙についてとりとめのない自分語りをする本。章も節も無く280頁ダラダラと続く。 創作としては二流の筈だが、万年筆とインクと紙オタクの自分は、金ペン堂とかカキモリといった固有名詞にテンションが上がり読了してしまった…
  • *神学の思考 by 佐藤優:現代神学のサーベイ。氏は賛否両論あるが、そもそも日本語で非信者向け神学の入門書はあまり無いので読むことに。数多く引用されているBarthを筆頭とした神学者の原著を知らないのでコメントしづらいが、とりあえず佐藤優氏のフェミニズムは伝わった。
  • *白い人・黄色い人 by 遠藤周作:初期の短編二編。前者は芥川賞受賞作。キリスト教について少し齧ってから読む遠藤周作は違って見えておもしろい。 しかし「ピエール、ひえるじゃないですか」のくだりにダジャレの意図を垣間見てしまう自分の魂も救済されるのだろうか。
  • *海と毒薬 by 遠藤周作:大戦末期の九大病院生体解剖事件をモチーフに、いわゆる悪の陳腐さをリレー形式でのナレーションで描いた話。話としては面白いし、高い技術力を感じたが、悪の陳腐さそのものに非キリスト教性と日本人性を見出そうとした点には違和感を感じた。
  • *沈黙 by 遠藤周作☆:作者のmagnus opusをやっと読んだ。テーマ、構造的技術、蜥蜴や海といったメタファー、「転んだ」者に死者の生活を継がせるアイロニーなどどれをとっても完成度が高い作品だった。 実在したフェレイアに遠藤の考える日本人の神性を語らせるシーンは見事。
  • *これから読む聖書: 創世記 by 橋爪大三郎:最初の15行でみんな諦める創世紀を全部読むためのガイドブック。正直2,090円の価値があるとは思えないが、これがなかったら50章読みきれなかった気がする。社会学者らしく途中でレヴィ=ストロースとヴェーバーが出てくる。
  • *キリスト教と日本人 by 石川明人:日本とキリスト教の関わりについて書かれたサーベイ。バランス感覚が良く書かれており、構成もしっかりしていたのでスラスラ読めた。特に「沈黙」を読んだ後でなぜ切支丹弾劾が激化したかの背景についても知ることができた。
  • *お金のむこうに人がいる by 田内学☆:元同僚の息子に投資のwhyにあたる部分を平易かつ適切に説明する本はないかと三省堂本店を彷徨っていたら巡り合った良著。 スミスもマルクスもケインズもゲェって人でもこれは読める。子供がいる親御さんはぜひ親子で読んでほしい。
  • *Kochland by Christopher Leonard:今やアメリカ最大規模の未上場企業にして革新左派の最大の敵Koch Industriesの伝記とも言える本。Jane Mayerの本より遥かに取材が綿密で、内容も濃い。 「商社」誕生ストーリーとして興味深く、著者のFRB本も読みたいと思った。
  • *神学の技法 by 佐藤優:マサルさんの神学入門書下巻。半分くらいが教会論なので、必然的に彼のプロテスタント信仰が色濃く出ている。もう少し宗教改革について勉強してから再読したいし、カトリックの観点から書いた入門書も読んでみたくなった。
  • *ふしぎなキリスト教 by 橋爪大三郎・大澤真幸:社会学者ふたりがキリスト教について駄弁った本で、スラスラ読めた。神学・社会学クラスタからはだいぶ集中砲火を浴びた本なので、内容の鵜呑みはおすすめしないが、マルクス主義の宗教性など、問題提起の本としては良かった。
  • *古代哲学史 by 田中美知太郎:キリスト教は休憩してギリシャ哲学。作者は有名人らしい。意外と実用的。第一部は古代ギリシャ哲学を100ページたらずで纏め、第二部は(古いだろうけど)網羅的な索引、第三部はヘラクレイトスの訳。腰を据えてプラトン読もうと思えた。
  • *One Billion Americans by Matt Yglesias:奇才政策コラムニストによる対中国米経済政策本。一言で言うと表題そのまま「人口増加しか勝たん」働き方改革・移民緩和・都市計画の見直しなど多角的に分析・提言している良書。何気にアメリカも日本と似た問題を抱えてるのよね。
  • *キリスト教と笑い by 宮田光雄:神からイエス、ルターからバルトに至るキリスト教関係者と笑いの関連性をまとめた本。筆者の10年くらいの研究が200ページでまとまっている。 こんな本どこで見つけたんだって思うでしょう?YouTubeで紹介されていたんです。ネットは広い。
  • *お役所仕事が最強の仕事術である by 秋田将人:自治体に30年務めた筆者の公務員仕事術をまとめた本。学びとしては役所の仕事も民間の既存顧客対応の仕事も「守りの仕事」という意味ではよく似ているということ。そういう意味ではカスタマーサクセスの人とかにオススメかも。
  • *地面師たち by 新庄耕:著者の作品は3作目。全宅ツイのサポートもありリアリティみなぎる作品となっている。悪くなりきれないやつを描いたらこの人は当代随一よね。情景描写の静謐な文体とドス黒いテーマの対比が秀逸。もう少し辰さんのキャラが立っていたらさらによかった。
  • *十頁だけ読んでごらんなさい。十頁たって飽いたらこの本を捨てて下さって宜しい。 by 遠藤周作:タイトルに釣られて買ったが、全てのビジネスパーソンに勧められる本。特に男性。あとクソリプ飛ばす人は全員読んだ方が良いと思うが、そういう人は十頁も読まずに捨てそう。
  • *これから読む聖書: 出エジプト記 by 橋爪 大三郎:筆者の『これから読む聖書』シリーズ二冊目。創世記のやつよりは本として価値があった。途中の律法のところ、特に補償に関するところに惹かれるのは散々契約書を読んだからだろうか。聖所作成マニュアル部分はもう一度読む。
  • *夏が破れる by 新庄耕:一気に読んでしまったが、いやあ怖かった!映像化されたら絶対に観れない本格心理スリラーでしたw 胸をざわつかせる描写力と読者の想像を掻き立てる構成力。まるで映画を観ている感覚を活字だけで演出する感じ。手法は違えどPuigに通ずるものがある。
  • *にごりえ・たけくらべ by 樋口一葉:五千円札氏の代表作8編。地の文は文語+会話は江戸ことばの文体を雅俗折衷体と呼ぶそうで、これに苦戦。 文体は難しいが話はポップで現代に通ずるものがある。出てくる男にクソ野郎が多く、筆者はアラサー女子に対して辛辣。また読む。
  • *聖書考古学 by 長谷川修一:歴史的遺物や遺構から聖書の内容を検証した本。聖書のメタ分析だとモーゼ五書の文書仮説が有名だが、列王記あたりになると聖書以外の史料も少なくてなく、かなりのところを推論できるらしい。旧約聖書をもっと読んでから再読したい。
  • *日本語で読むということ by 水村美苗:『日本語が亡びるとき』に続く2冊目。僕にとって水村氏は史上最も似た境遇にある作家であり、だからこそ氏のエッセイはサーッと読めてしまう。それが良いかどうかは正直わからないのだけど『日本語で書くということ』も買ってしまった。
  • *The Lord of Easy Money by Christopher Leonard☆:Kochlandに続き2冊目。綿密なリサーチと構成力で、過去20年の米国金利政策という味気ない話をドラマたっぷりに描いた本。リーマンショック以降金融政策に無頓着だったので良いアップデートになった。FOMCはやっぱり必読ね。
  • *マルティン・ルター ことばに生きた改革者 by 徳善義和:ルターの伝記。作者もルター派の神学者なので肯定的すぎるのかもしれないが、まずは1冊目ということで。恥ずかしながらルターが聖書をドイツ語に訳したことがStandard High Germanの始まりというのは初めて知った。
  • *日本語で書くということ by 水村美苗:氏の(20世紀前半日本)文学への愛を感じるエッセー集。私は水村氏と同じく渡米したが割と英語に馴染んでアイデンティティを持ってしまったので、かえって日本文学のclassicsに疎いのだが、この本を読み谷崎と漱石は読み込もうと思えた。
  • *Martin Luther Renegade & Prophet by Lyndal Roper:牧師の娘にしてOxfordの歴史学者が10年かけた伝記。宗教改革に関してはルター自身の啓蒙の才能もあれど、地政的、技術的、人的要因に因る部分も多いことがわかる。ルター本人の短所と問題点も客観的に検証されている。
  • *自壊する帝国 by 佐藤優:『国家の罠』の前段の話。ソ連崩壊という歴史的事件を背景に、氏が第二の青春と呼ぶモスクワ勤務時代を回顧した本。ソ連崩壊の原因がわかるわけではないが、佐藤優については理解が深まる。若い時に異文化の友を持てるって素晴らしいことです。
  • Winners Dream by Bill McDermott:ServiceNowのリサーチの一環として拝読。典型的なアイルランド系家庭に生まれた筆者がSAPのCEOに昇りつめるまでの立身出世物語を描いた本。ザ・営業マンって感じで共感ポイントが多く、SAPクラウド事業の裏側も見えて興味深かった。
  • *兄弟 by 余華☆:2年前からの積読を消化。小説を読みながら泣いたのは何年、いや何十年ぶりだろうか。作り話だからこそ伝えられる人生の真理を、鮮やかに描かれた現代中国60年のsense of time and placeの中に見た。 そして彼女が原作を1日で読み終えていて草
  • *第四間氷期 by 安部公房:ツイッターで薦められていて読んだ。未来予知装置を作った技術者の苦悩を描いたSF。この何かザラザラした感じの描写は最初とっつき難いが徐々に癖になる。 個人的にはキモいタッチの挿絵は要らなかったかなあ…水棲人は想像の範囲の方が良かった。
  • *戦艦武蔵 by 吉村昭:小説家の友人に薦められて読んだ。1944年にレイテ沖海戦で沈没した巨大戦艦について緻密な取材と写実的な筆致で書いた本。活躍しなさすぎでガンダムでいうクィンマンサ・αアジール感があった。『失敗の本質』も読んでいたことで尚更その悲劇性を感じた。
  • *沈黙の宗教ー儒教 by 加地伸行:神保町で目に留まって買った本。「儒教こそ日本の宗教である」という日本の知識人が誰しも一度は考えるテーゼを、仏教徒の中国思想史の専門家が多角的に語った本。戦前世代おっさん特有の偉そうな語り口が残念だが、総じて示唆に富んだ良書。
  • *福音書ー四つの物語 by 加藤隆:年初には福音書の数すら知らなかった自分がまさか四つとも通読するとは思っていなかった。そのガイドブックとなった本。もう少し聖書を読み込んでから再訪したい。そもそも四つあり、その差異を論じるというのがキリスト教っぽいよね。
  • *みかづき by 森絵都:実家近くの本屋で買った積読を消化。森さんの作品は『カラフル』に続いて二作目。ポップな情景描写の向こうに深い家族愛と日本人の死生観を強く感じた600ページだった。進学塾の盛衰というモチーフで戦後日本を描くセンスも秀逸。
  • *Dream Hoarders by Richard V. Reeves:Upper Middle Class(準富裕層)が階層固定の主原因だと説いた本。筆者はBrookingsのシニアフェローでColeman Hughesのポッドキャストでその存在を知った。それこそ「年収2,500万円なのに老人と貧乏人のせいで辛い」勢に薦めたい一冊。
  • *夕あり朝あり by 三浦綾子:敬虔なキリスト教徒だった白洋舎の創業者五十嵐健治の人生がテーマなのだが、信仰に関係なくスタートアップの創業者に薦めたい一冊。ハードシングスの連続なのだが、常に前向きで、勇気づけられること請け合いである。信じるものは強い。
  • *東方キリスト教の世界 by 森安達也:ギリシャ正教~ボスニア教会~ロシア正教に至るまでの「東側」のキリスト教の歴史をまとめた本。作者は94年に夭逝しており、今回は復刊。情報量が多すぎて消化不良気味なので再読候補。キリスト教のローカライズがふんだんに見てとれる。
  • *トマス・アクィナス by 山本芳久:中世の神学者/哲学者アクィナスを愛してやまない学者によるサントリー文芸賞受賞作。哲学にとっての神学のモチーフ的重要性と、神学にとっての哲学の思考ツールとしての有用性を感じる良著。ニコマコス倫理学を読んでから再読したい。
  • *教義学要綱 by Karl Barth(天野有・宮田光雄訳):キリスト教について見聞を深める上でバルトの作品は何か目を通さなくてはと、丸の内の丸善で見つけて買った。使徒信条を解説するだけで350ページ語れるんだなというのがまずの印象。プロテスタンティズムが全面に出ている。
  • *プレーンソング by 保坂和志:コロナで寝込んでいても読めそうな本をと積読消化。何気に初保坂作品。事件という事件がないのでネタバレも何もないが、敢えてネタばらしをするなら、終盤いきなり始まる5人の会話シーンの可読性を担保するための最初の200頁といってよい。
  • *プロパガンダ戦史 by 池田徳眞:慶喜の孫にして外交官として対米謀略放送『日の丸アワー』を企画した著者が、プロパガンダについて綴ったエッセー集。歯に衣着せぬ物言いは清々しい。英国人はどんな状況下でも己の非を認めず、権謀術数の限りを尽くすという指摘には笑った。
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