2020-04-19

コロナの中心地に敢えて残る

去年の8月、仕事の関係でニューヨークに戻ってきた。16年ぶりのことだ。サンフランシスコにも増して多様な顔ぶれ。憩いの森セントラルパーク。ふらっと聞きに行けるジャズ。ハドソン川の向こうに臨むJersey Cityのスカイライン。大人になってから住むニューヨークは、実に楽しい。

だが、久しぶりのニューヨーク生活は、COVID19でガラッと変わってしまった。本当にあっという間である。出張で行くはずだったミラノ行きをキャンセルして、ジュネーブから慌てて戻ってきたのが3月4日。そこから6週間、まさか12万人以上が罹患し、8000人1以上の死者が出るとは。

死者が増えるに連れて、このまちを去っていった人たちも少なくない。マンハッタンの西、大西洋を臨む別荘地Hamptonsでは、普段は4000ドルで借りられる家が18000ドルに値上がりしているらしい。暇でツイートが増えたCEO達も、場所がSouthamptonとかになっていてエグい。仲の良い友達のひとりも、実家のあるフロリダに帰ってしまった。

ぼくも実は、去ろうと思えば去れる。幸い仕事は元からリモートだし、より安全で身を寄せられるところも無くはない。では何で残っているのか。そこまで自身の身に危険を感じておらず、独り身という理由が大きいが、それと同じくらい、コミュニティを、アメリカをこれ以上引き裂きたくないと思っているからだ。

アメリカは今、完全に引き裂かれている。ちいさな政府vsおおきな政府という昔の政治対立構造はとっくに崩れており、形骸化した共和国にあるのは溝だけだ。地方と都市部の溝。貧乏と金持ちの溝。トランプ支持者とNever Trumpersたちの溝。我々は、反論は愚か、同じ土俵に上がろうとすらしていない。合衆国とはもはや名ばかりだ。

そんな中でも、都市部の金持ちの多くはエゴイストなので、資本主義の教理に従い、「大好きな」ニューヨークを脱出する。そして、安全な別荘に引きこもり、そこからトランプ政権の後手後手の対応を批判するのだ2

今となっては、誰がこのまちにコロナウイルスを運んできたなんて分かりやしない。が、少なくともUber Eatsの配達員をしている合法かすら怪しい移民たちや、渡航歴は愚かパスポートすらないであろう郵便配達のおじちゃん・おばちゃん達ではないのは確かだ。そんな彼らに、「バス感覚で飛行機に乗ってきたアホブルジョワたちがコロナを運んできた」と思われても仕方ない。僕自身、仕事とは言え、年に50回以上飛行機に乗る「悪いやつ」の一人だ。そして皮肉なことに、COVID19であらゆる社会インフラが寸断された今、彼らが、僕たちグローバルクソエリートのデリバリー頼みの生活を支えている。

そんな状況で逃げる勇気が、どうしても湧いてこない。もしぼくが今、スーツケースを慌てて詰め、Uberに乗り、JFK空港まで行ったとしよう。そのUberの運転手は、僕のPatagoniaをトランクに投げ入れながら、こう思うだろうーああ、こいつも逃げるのか。或いは、まちが落ち着いて、行きつけの美容院に散髪に行ったときに、こう聞かれるのだー〇〇さんも大変でしたよねー大丈夫でしたか?州外でじっとしてたので大丈夫でした…とでも言うのだろうか。この疫病はいずれ教科書に載るだろう。もし将来、子供がいたとしてーお父さんはCOVID19の時どこにいたのーと聞かれたら、なんと答えるんだろう?お父さんはね、逃げたの

同じ島に住み、平常を装い、淡々と仕事をこなし、なんとか乗り越えようとしている人たちを見捨てないこと。年々格差が広がり続け、アメリカンドリームが絵に描いた餅になりつつある今、移民としてこの国の自由資本主義の恩恵を120%受けた僕ができる、唯一の悪あがきなのかもしれない。だから明日も、衛生面に気をつけて生活し、恐怖を煽らず、チップを多めに渡し、もし買い出しに出るのであれば、マスク越しに微笑んでドアを開けてくれるマンションの職員に言うのだ。今日もありがとう、と。


1 死因が特定できてないものは除いているので、実際は1万人を超えると思われる

2 トランプ政権の対応の不味さは、後世まで語り継がれるべきだと個人的には思っている。大統領府の最大の仕事は国防であり、今回はその一点に於いて、見事な大失敗である。

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