2020-07-12

“The Booksellers”を観て−ダラダラ物色が消える日

The Booksellersというドキュメンタリーを観た。題名通り本屋の話で、特に古書の売買に関わる人々をオムニバス形式で追う。ニューヨークの古書通りの最後の生き残りであるThe Strandの後継娘の話や、Argosyの三姉妹の話など、自分の生活圏にある本屋がたくさん出てきた。

映画でも出てくるコメントだが、世の中には「本屋が好きな人」というのが一定数いる。もちろん本も好きなのだろうが、それよりも本屋が好き。筆者もその一人で、何も欲しい本がなくても、1〜2時間でも持て余すと、フラッと本屋に行く。新しい本に出会う時もあるし、気になる作家を予めメモしておいて、立ち読みに行く時もあれば、買う時もある。目的はその時によってまちまちで、むしろ「一定時間本屋に滞在する」ことの方が目的化している。

ドキュメンタリーを観ながら、「街角の本屋はこれからどんどん潰れるなあ」としみじみ思った。紙の本の需要が減るからではない。紙の本は読まれ続けていて、微増しつつすらある。むしろ「本屋好きが本屋でダラダラする」ということが、コロナ時代では難しくなるからだ。本屋好きにとって、本屋とは時間を潰す場所であり、罹患リスクを最小限に抑える生き方を求められる今、本屋に行く人のほとんどは「本を買うため」に本屋に出向くだろう。そうなると、品揃えの良い本屋、つまり大手書店に人が集まることになり、街角の本屋は圧倒的に不利になる。

マーケティング的に言えば、街角の本屋のjobs to be doneは「本が買える場所を提供する」ではなく「時間潰しも兼ねた「新しい本に出会う』というセレンディピティを演出する」なのだ。作品の中でも、蒐集家の一人が、「インターネットの台頭で、掘り出し物の古書を『探す』というワクワク感が薄れてしまった」と言っていたが、まさにその通りで、便利さの誘惑は強烈である。

街角の本屋に限らず、「物理的にどこかに行き、物色する」という行動パターンに依存するビジネスは、これから厳しい。ファッションでも、ブランドの直営店は生き残るだろうが、百貨店は厳しいし、セレクトショップやブティックにもなかなか客足が戻らないだろう。前にも増して、買って使った人のレビューが大切になってくるだろうし、Eコマースでも「たくさん試して、欲しいのがあったらキープ」みたいな買い方がもっと可能になるだろう。

逆に、いわゆる買ったものをレビューする系の仕事は、これからさらに需要がある妥当。購買ジャーニーに於けるレビュワーの重要性が増すからだ。今までの、「まずは店舗に出向く→あ、これ良さそう→ネットで評判チェック→購入」という流れに於いては、レビューの役割は「最後の一押し」であった。しかし、「まずは店舗に出向く」が激減すると、「店舗に出向く理由を作る」役割もレビュワーに回ってくる。そうなると、お店の方もカリスマレビュワーにはより多くのアフィリエイト料を払うようになるだろう。

幸運にも本屋をやらせてもらえている—ドキュメンタリー後半でとある本屋が言っていたが、その幸運もそう長続きはしないだろう。

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