2020-07-16
創業期スタートアップに於ける、グレートカンパニー採用の盲点
一昨晩聴いていた「あんりとーく」1で、いわゆるメガベンチャーからスタートアップに鳴り物入りで入社してきて、その後機能しない人の話が出ていた。
創業期のスタートアップで採用に関わったことがある人なら、心当たりがあるのではなかろうか?ぴかぴかの経歴、文句ないカンペキな面接、カルチャーフィットも申し分なし。入社当日には社長からの鼻息荒い入社アナウンスが流れる。
しかし一ヶ月、一四半期と時間が経つにつれ感じる違和感。
あれ、何か違うぞ…
筆者も、何度か経験がある。
佐俣夫妻の言葉を拝借すれば、「ともすれば万能感を持って現れてしまう」彼らが機能しない要因を、自分の8年余りのスタートアップ経験に照らして考察してみたい。創業期のスタートアップ関係者以外には、全く参考にならぬ、よもやま話である。
当然のことだが、会社の成長戦略には、順番とタイミングがある。踏むべきステップを順序よく踏むことで、ぐいぐいと成長していく。金持ちとインテリが気さくにオンラインで買いやすく且つ在庫コストが低い本から始めたアマゾン。大学というわかりやすいコミュニティに被さるかたちで始まったフェイスブック。必然にせよ偶然にせよ、メガベンチャーの奇跡と、その戦略の軌跡は、切っても切れない関係にある。
ここで一度立ち止まり、そういう「グレートカンパニー」2からスタートアップに働きに来る人がどんな人たちか、考えてみたい。
まず言えるのは、彼らの大半は、創業期を知らない。創業期から居たとすれば、相当額の株式なりSOを手にしているはずで、少なくとも数億円から数十億円の資産を持っている人たちだ。そういう人たちは半分引退しているか、グレートカンパニーで要職についているか、自分で起業しているかだ。
失礼を承知で言うと、そんな選択肢も富もある人間が、創業期のスタートアップにふらっと現れることは稀である。なので、グレートカンパニーから人が来るとすれば、その人の知るグレートカンパニーの姿は、創業から遥か先のフェーズにある場合が殆どである。
事業会社で、売上や社員数のゼロがひとつ増えれば、それは全く別の会社だ。そして、経験していないその会社の過去は、何人にとっても想像の域を超えない。なので彼らは、あなたが本当に知りたいであろうグレートカンパニーが同等のフェーズで直面した問題、そしてそれらの解決方法は知らない。
仮に万が一、ものすごい運命の巡り合わせで、そういうフェーズの一次的経験を持つ人が入社してくれたとしよう。それでも、その人が成功の鍵を握るスーパー社員になるとは限らない。これは佐俣夫妻が語っていた「土台」の話に繋がっていくる。
会社の成功は、必然として語られる。まあでも実際そんなことはあり得ない。多くの偶然と試行錯誤がフクザツに重なりあい、「結果として」うまく行くことが殆どだ。なので、仮にグレートカンパニーですごい成功体験を積んだ人が入社しても、その人が今まで通りの動き方で成功できる可能性は未知数である。土台が違うからだ。もし成功するとすれば、それは本人ならびにスタートアップの経営陣と新しい仲間たちの相互努力の先に生まれる新しい土台の賜物であり、グレートカンパニーの出身者である事実は、踏み固められた新しい土台の一層でしかなくなっているだろう。
もうひとつ、これはあくまで筆者の観測範囲だが、グレートカンパニー出身キャリア採用の多くが、「本当に会社の明暗を分けるリスク」をとったことがない。
それなりに大きく成長した会社というのは、成長の過程で、リスク管理体制を整えていく。結果として、本当のリスクを取るのは難しくなる。それは、以前は好きなようにやらせてもらっていた古参のエースも例外ではなく、ましてや、転職市場に出てきそうなVP未満レベルの人なら、尚更そうだ。結果として、これから働く創業期ベンチャーでの経験が、真の意味での初挑戦と言う人が多い。
これは必ずしも悪いことではない。場数がすべてではないし、スタートアップという究極のビジネスハックに於いて、過去の成功は必ずしも助けにはならない。ただ、そのグレートカンパニー「卒業生」を雇う際、あまり彼らの経験の直接的有用性を過大評価しないほうが、お互い幸せだと思う。