2012-09-23
Stand By Me, Ally McBeal
ごく稀にだが、英語のセンスが抜群にいい日本人がいる。
小さい頃に英語圏に住んでいたわけでもなければ、家族と英語を話して育ったわけでもないのに、発音が良く、聞き取りに何の問題もなく、文章を書いても、日本人にありがちな冠詞や前置詞の間違いをしない人たちだ。下手するとFlushingで育った中国系アメリカ人や、Greenwichに湧くほどいる在米日本人よりも、上手かもしれない。割合としては、果てしなく低いのだが、2人ほどそういう人に会ったことがある。1人は大学まで、もう1人は大学院まで、一度も英語圏に住んだことがなかった人たちである。
専攻も生い立ちも全く違う2人だが、一つ共通点がある。2人とも、同じ映画・テレビシリーズを何百回も見て、英語を覚えたのだ。
1人は、"Stand By Me"の大ファンで、台詞を全て暗記するまで何回も見たそうで、高校時代は、Ben E. Kingが歌った同名の主題歌を目覚まし時計の代わりにセットしていたそうだ。その人は映画全般が大好きなのだが、その中でも"Stand By Me"は大のお気に入りらしい。1
もう1人は、90年代後半から00年代前半に流行った弁護士もののテレビドラマの"Ally McBeal"の大ファンで、これまた何度も繰り返し見たそうだ。2最初は吹き替えで見ていたのだが、段々、「原作では何と言っているのだろう」と興味を持ち、日本語の字幕で見るようになり、最終的には原作を見てわかるようになるまで見たそうだ。弁護士ものなので、法律関係の言葉もたくさん出てきて最初は苦労したそうだ。
ぼく自身は全然違う方法で英語を覚えたのだが、もし英語の大好きなテレビなり映画があるならば、原作が字幕無しでわかるまで何百回も繰り返し見るというのは、非常に効果的な英語の学習法かもしれない。まずリスニングが鍛えられるし、語感が研ぎすまされることで、冠詞や前置詞といったルールがあってないようなものも、間違えにくくなる。3そして、発音も単語とワンセットで覚えられるので、一石二鳥だ。さらに、テレビや映画の台詞というのは、日常会話がベースになっているので、多彩な口語表現を身につけることができる。強いて言えば語彙がさほど増えないかもしれないが、語彙なんてのはHitchensやNew Yorkerでも読めば勝手に増えるものである。日本人が英語を覚えるうえでネックになるのは、語彙よりも、ベースとなる表現や言い回しの習熟度である。
ただ、このアプローチは、人の話を隅々まで網羅的に聞ける、いや、聴ける人でないと、効果が出ないような気がする。内容を理解するだけではなく、どういう表現がどういう時に使われていて、どの単語がどう発音されるかといったことに自然と注意を傾けられる人でないと、ザルで水を掬うようなものだ。まあそれでも全く英語に触れないよりは効果があるんだろうけれど。
UPDATE: "Stand By Me"の方から、「目覚ましにしていたのは主題歌じゃなくて台詞の方ね」との訂正が。記憶が曖昧で申しわけない。
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これには裏話があり、そもそも何で"Stand By Me"に興味を持ったのか聞いたところ、「私は、変声期くらいまでの男の子に目が無いの<3」とのことだ。確かにその人は、大学卒業後、タイで小中学生に英語を2年ほど教え、今はアメリカの大学の博士課程に在籍している。
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先ほどの少年に対する偏執的な愛情とは違い、こっちの方の理由は比較的まともだ。敏腕弁護士としてのキャリアを築きつつ、最後は自分なりのかたちで幸せを手に入れるAlly McBealに、高校生の頃からずっと憧れているそうだ。
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どういう時にa/theを使うのかとか、なんでこの前置詞じゃダメなのかとかよく聞かれるが、理由付けをしたところで必ず反例がある気がするので、そのまま記憶してしまうのが、一番の近道だと思う。
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