2011-10-11
Wikipedi-attack
ぼくはこの一年で、二度だけ寄付をした。一つは東北大震災。六本木で生まれ、人生の最初の14年間を東京で過ごしたものとしては、当然のことだと思う。もう一つはWikipediaだ。
この10年でウェブ上では多くの画期的なサービスが生まれた。Googleこそ一応1998年生まれだが、GmailとFacebookは2004年、YouTubeは2005年、Twitterは2006年、iPhoneは2007年生まれだ。この間にこっそりと、でも着々と、その重要性を増してきたのがWikipediaだ。WikipediaでWikipediaを調べてみるとこう書いてある。
2001年1月15日に英語版が発足、その後多くの言語へ展開し、2010年8月30日現在、273言語で執筆が行われている。
また
2010年8月現在、約270の言語版の記事数の総計は1600万以上に上り、最も多い英語版が約340万件、英語を除く諸言語版の合計が約1320万件となっている。またAlexa.com の全インターネットを対象とするアクセスランキングでは、20位以内に入っている。
Wikipediaの圧倒的なすごさは、大抵の事柄に関して一通り知るべきことが全部書いてあるということに尽きる。これだけの量の情報を、ボランティアのみでWeb上に構築したというのは実にすごいことだ。大学時代も今も、ちょっと知りたいなと思うことがあれば、やはり行き先はWikipediaだ。もちろんそこに書いてある情報が必ずしも十分でも、全て正しいわけでもない。でも輪郭をなぞるには十分すぎる情報が一カ所に集められているのである。
このWikipediaが最近メディアを賑わしている。というのも、最近イタリアで新しく可決された「盗聴令」に反発し、イタリア語のWikipediaを閉鎖したからだ。ハーバードのNieman Labによれば、「盗聴令」の詳細はこうなっている。
The bill’s most contentious section is paragraph 29, which stipulates that, should any blogger publish information deemed to be defamatory — deemed to be so not by a process of judicial review, but by the subject of the alleged defamation — then the blogger will be forced to print a correction within 48 hours of publishing the offending post. Or else pay a fine of €12,000 (nearly $16,000).
(新しい法令の中で最も波紋を呼んでいる第29条には、「仮にブロガーが名誉毀損にあたる情報を開示したと、法的手続きの元ではなく毀損の対象者によって判断された場合、ブロガーは48時間以内に訂正文を出版する義務があり、これに準じなかった場合、12000ユーロの罰金を課される。」と書かれている。)
まるで耳を疑うような法令だが、「イタリアはウンコだ」と首相が言ってしまうような国だから、考えられないわけではない。実はこの「盗聴令」、イタリア・イズ・ウンコ発言をメディアに報道されアタマに来たBerlusconi首相の報復行為だとも言われている。いずれにせよ、本当にサッカーとファッション以外取り柄のない国だ。
もちろん国民の間では大ブーイングで、そこに現れた強力な助っ人がWikipediaだ。デモ行為の一環として、Wikimedia Foundation(Wikipediaを運営する母体)は、イタリア語のWikipediaを一時的に閉鎖したのだ。
...多分これで一番困ったのは、宿題をやっていた学生じゃないだろうか。「なんでやねん。Wikipediaなかったら宿題でけへんねん。どうしてくれんだWikipedia!これも首相が悪いんだ!自国をウンコだっちゅうテメエがウンコだ!」
Wikipediaのストライキが功を奏したかどうかはわからないが、今のところ、「盗聴令」は修正されるべく再考されることになった。イタリア語のWikipediaも今のところは閲覧可能になっている。
今回のWikipediaのすごさは、一国の政治に能動的に介入したことだ。GoogleやFacebookもロビイストとして、アメリカの政治に関与はしているが、今回のWikipediaのように自分から進んでストライキのような直接的な手段で国政に関与したことはない。例えば、今年前半チュニジア・エジプトで起こった「アラブの春」ではFacebookやTwitterの貢献が大きく取り上げられたが、いずれの会社も、自社サービスの貢献を大きく主張することはしていない。というのも、会社組織にとって、政府から「政治的な」組織だと思われるのは百害あって一利なしだからだ。そこら辺が、非営利団体であるWikipediaは違うのかなと思った。
今度日本の首相が根を上げそうになったら、「首相を続行しなかったら日本語のWikipediaを閉鎖する」とかやってくれないだろうか。