2011-10-03

App(B)logged

UPDATE: hkmurakamiがもっと簡潔に、ぼくが言いたかったことを代弁している。

ぼくは基本的に日本のテック事情に関しては無頓着なのだが、友人から「AppLogが炎上中」という話を聞き、少し覗いてみた。

ぼくはAndroid上で開発をしたことがないし、Android携帯すら持っていないので、SDKの細かいところはわからない。オンラインの色々な記事や議論を読む限り、アプリの使用状況を回収・分析し、開発者がより的確な広告を提供できるようにするサービスのようだ1。—Androidの広告の精度を上げ、開発者により多くのキャッシュフローが行くようにし、その間に立って利益を出す—これ自体は悪いアイデアではないと思う。Appleがアプリの使用データを一手に握っているiPad/Phoneでは考えられないサービスだ。問題は、プロセスであったように思える。

AppLogの一番の問題はエンドユーザーがあまり得をしないにも関わらず、大々的にエンドユーザーに宣伝してしまったことだ。AppLogのホームページによれば、ユーザーのメリットとしてこう書かれている。

AppLogというアプリケーションの利用情報を送信する事で、利用しているアプリ開発者の収益化支援に協力する事ができ、より便利に「無料アプリ」を楽しむ事ができます。

は?

「アプリ開発者の収益化支援」を真剣に考えているユーザーがどれだけいるだろうか?自分でアプリを開発している人たちは、ユーザーベースの1パーセントにも満たないだろう。残りの99パーセントにとってアプリは使うものでしかない。便利なアプリなら使うし、楽しいゲームだったらダウンロードする。それまでのことだ。

AppLogはユーザーにとっての利益が不透明な反面、問題点は明瞭だ。アプリの使用データが、ミログや、広告ネットワークに流れるわけである。ぼくは決して、その情報が悪用されると言っているわけではない。ただユーザーの視点からすれば「なんで自分の情報を他人に渡さなきゃならんのだ」と疑問に感じるのは、自然である。

だったら、ユーザーから常時データを集めているGoogleやFacebook、iPhone/iPadを通して位置情報などを記録しているAppleや電話会社はどうなんだと反論する人がいるかもしれない。実際、@takuyakitagawaは、こうツイートしている。

four squareはすごい量の人々の場所情報を持ってるし、facebookは年齢、性別どこから、写真、交際関係、性癖まで恐らく持ってる。googleに至ってはクレジットカード情報や違法行為までメールを通じて知っているだろう。使用制限があるから僕らは守られているだけなのだ。

ごもっともだ。でもAppLogとFacebook/FourSquare/Googleの間には二つ決定的な差がある。

一つは、AppLogと違い、FacebookもFourSquareもGoogleも、ユーザーが必要とするサービスを作り出していること。AppLogがなくてもユーザーは痛くもかゆくもないが、FacebookやGoogleがなかったら困る人は続出するだろう。FourSquareも、この調子でユーザー数を増やしていけば、大多数の人にとって必要不可欠なサービスになるかもしれない。ユーザーがこれらのサービスに譲歩して、自分の個人情報を共有するのは、そうすることによっていろいろと便利になるからである。もしミログがAppLogを通してユーザーのデータが欲しければ、まずユーザーが必要とするサービスを作り出すことに焦点を当てるべきであろう。現在の「ユーザーを食い物にして、開発者を喜ばし、利益を生もう」というモデルは根本的に間違っている。

もう一つは、Facebook/FourSquare/Googleと違い、ミログが名の知れない小さな会社でしかないということだ。もしFacebookやGoogleがユーザーのデータをむやみに漏洩した場合、マスコミをはじめ、多くの人々からバッシングを受け、何千億円という損害をこうむるだろう。大企業であればあるほど、信用の対価は大きいものだ。ユーザーたちは、潜在的にこれを理解している。Googleからデータが漏洩することはないだろうと思うから、信用して大事なEメールの保管を頼むのである。残念なことに、Facebookはこの点度々ユーザーを裏切ってきたが、今やFacebookは麻薬と化しているので、多少ユーザーの信用を失っても大丈夫なようになっている。今の段階では、ミログには、Googleの信頼性もFacebookの中毒性もない。正直、ユーザーがミログにデータを送る理由が全くないのである。

端的に言えば、AppLogは失敗作だ。同じプロダクトでも、いくらでも違う戦略はとれたのではないか。例えば、有料のアプリだけに顧客を絞り、AppLogを搭載するかどうかをオプションにし、搭載したバージョンは値段を下げるといった売り方もできたはずだ。ユーザーが怒っているのは、ミログがデータを集めていることではない。ミログが自分たちのデータを集めているにも関わらず、自分たちになんの見返りもないということである。もしミログがFacebookだったら、こういう不公平な取引もごり押しできたかもしれない。でも、それをするにはいささか時期尚早だったであろう。

ぼくはミログという会社も、CEOである@yoheikiguchi氏も責めるつもりはない。会社あるいは個人に対する誹謗中傷は、ネットでよく見られる稚拙で矮小な行為であって、みんな慎むべきだと思う。ただしAppLogはプロダクトとしてはクソだ。ミログのスタッフは、今一度、作戦を練り直すべきだというのが、もっと多くの日本発の良質なスタートアップの出現を望むぼくの本心だ。



  1. 間違っていたらfeedback-j@ktamura.comまで連絡してほしい。

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