2011-10-01

自転車と車

シリコンバレーでは自転車通勤の人をよく見かける。大体の大通りに自転車用レーンがあり、社内に自転車置き場があることも珍しくない。サンフランシスコから自転車+電車で、パロアルト1まで通勤しているという話もよく聞く。

ぼくも車とチャリ半々くらいの割合で通勤しているのだが、ペダルをこぎながらふと思ったことがある。

自転車と車の関係は、スタートアップと大企業の関係に似ている。

自転車は脆い。車と衝突すれば一発であの世行き、こけただけでも大惨事だ。一応ヘルメットなるものがあるが、それも気休めでしかなく、ぶつからないように転ばないように気をつけなければ痛い目にあう。脆いうえに自転車は非力だ。立ちこぎしてもそのスピードはたかが知れているし、急な登り坂があろうもんなら、たちまち減速してしまう。車のように何時間も時速100キロでなんて無理な話だ。

—脆くて非力—まさしくスタートアップそのものだ。ほとんどのスタートアップは失敗に終わるし、予算もシビアな場合が多い。一つとんちんかんな機能をリリースしただけで、ユーザー数が激減し、お金が足りなくなり、会社を畳むことになったなんて話は星の数ほどある。大企業が牛耳っている市場でスタートアップを立ち上げるというのは、高速道路で自転車に乗るようなものだ。

脆くて非力な自転車だが、悪いところばかりではない。自転車を停めるには、ポールなりガードレールなりがあればそれで済むが、車だとそうはいかず、延々と駐車場を探すことになる。幅4メートルの裏路地に車で入るのは神経をすり減らすけど、自転車だったらスイスイ乗っていける。自転車の方が車より小回りが利くというのは、スタートアップが、大企業に比べ、方向性を変えやすかったり、速いサイクルでプロトタイプを作れたりするのに似ている。

相似点は、ルールに対する姿勢にも反映されている。車が「止まれ」の標識の前で停止しなかったり、赤信号を突っ切ったりはなかなかしない。例え歩行者や他の車がいなくてもだ。車を運転するうえで、交通法規を守ることは、自身の安全うんぬん以前の問題だ。これが自転車だとどうだろうか。車も来ていないのに「止まれ」の標識で止まる自転車というのは少数派だ。大きな通りの赤信号で止まることはあるが、それも車がブンブン走っていて、信号を無視して突っ切ったらあの世行きだからだ。自転車にとって大事なことは事故にあわないことで、ルールは、その目安でしかない。

この対比もスタートアップと大企業に当てはまる。スタートアップというのは基本的に無法地帯だ。もちろん法律を守り、ユーザーの立場を考えて行動することは大事だが、それもサバイバルのためである。大企業と違い、一度でも法に触れたり、ユーザーを怒らせたりしたらアウトだからだ。それに比べて大企業の多くは、最初にルールありきである。ルールとしきたりでがんじがらめで、なぜそんなルールがあるんだとボスに訴えかけても「それはそういうものだ」と一蹴されるのは、日本もアメリカもさほど変わらない。

最後に忘れてはいけないのは、周囲との関係性。自転車に乗っている人たちは、お互いに超優しい。ぼくも週末に山のほうに自転車を乗りにいくことがあるのだが、たまに疲れて道路脇で休憩していると、「どうした?パンクしたか?」「具合が悪くなったのか?」と声をかけてくれるサイクリストが何人もいる。それに比べて車のドライバーはどうだろうか。少しでも信号で詰まるとクラクションを鳴らしたり、高速で無理矢理横入りするイヤなヤツばかりだ。車の運転中は、基本的にお互いを敵だと思ってんじゃないだろうかといつも思う。

スタートアップ同士は、競争も激しいが、基本的にお互いに超優しいものだ。こいつなんかは、最初ジャーナリストになりしまして同業のスタートアップの創業者に探りを入れたのだが、後でそのことを謝って許してもらっている。流行りの質問サイトであるQuoraも、事業立ち上げの時点で、Deliciousの元メンバーのYahoo! Answersのプロダクトマネージャーの意見を仰いだというし、Y Combinatorが出資したスタートアップたちは、みんなお互いのプロダクトを早い段階から取り入れて助けあっている。それに比べて昨今のテクノロジーの大企業たちは、揚げ足取りに終始するばかり。GoogleもAppleも特許がらみの裁判に走り回り、GoogleとFacebookはエンジニアの取り合いにやっきになっている。今週発表されたAmazonのKindle Fireは、iPadに対しての挑戦状だし、Googleに至ってはKindle FireにAndroidが搭載されていることに関してはダンマリを決め込んでいる。大人げないとしか言いようがない。

昔、中学校の合唱コンクールで「自転車で行こうよ」という歌があり、ぼくが伴奏を担当したのだが、途中で譜面を追えなくなり、伴奏がブツっと途切れるというクソ恥ずかしいことがあった。みんな「なんだこいつ、伴奏ミスりやがって」と思ってたんだろうが、「まあ仕方ないよ」と出番の後で放心状態のぼくを慰めてくれた。あの優しさも「自転車」効果だった...わけないわな。


  1. Facebookなどがあるシリコンバレーの中心地。道路を挟んだ向い側がスタンフォード大学。
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