2014-08-03

成長したい奴こそ大企業に行け

流行り廃りは世の常であるが、間違いなく今、ベンチャーは流行っている。会社を模したサークル活動から、野球の球団を持ってたり、上場しているような会社ですら十把一絡げでベンチャーと呼ばれる日本なので、どこまでをベンチャーと言っていいのかわからないが、いわゆるネット系の会社の人気ぶりは、一昔前の外資金融・コンサルを彷彿させる。

筆者も、投資家からお金を調達している比較的小さい会社(まあベンチャーだね)で働いているのだが、そういう立場から常々思っていることを、これから就職を考えている学生さんたちに伝えたい。

成長したい、と思ったら、ベンチャーに行ってはいけません。大企業に焦点を絞って就活することを心底勧めます。

以下、ぼくなりの理由を少し書こうかと思う。社員500人以上の会社では働いたことがないので、大企業に関する部分は割と想像かもしれない。ただ、今の会社は6人の時から見てきたりしていて、いわゆるベンチャー的な会社の内情についてはわかっている方だと思う。

成長したい奴は即戦力にならない

成長したいという学生は、一見モチベーションが高そうである。否、おそらくモチベーションは高い。ただ彼らっていうか学生に共通しているのは、漠然とした将来に対する希望的観測と、明確なまでの現時点での実力不足である。筆者も100%そうだった。

残念ながら、ベンチャーという環境はそんなに余裕がない。どれだけビジネスが円滑に回っていても、常に次の一歩を考えていなければ、競合にかみ殺されたり、市場の濁流の中で溺死してしまう。社員ひとりひとりが、毎日素早く動き回って、有り余る貢献をするくらいしか、ベンチャーの強みというのはないのだ。

そんな環境なので、ちんたらと人を育てる時間はなく、人には育ってもらう必要がある。ただ、そういう環境で仕事で結果を出しながら育つ人というのは、すでに何か強みがあって、既存の強みを重心に、ジワジワと強みの範囲を広げていける人(あるいは強みをさらに確固たるものにしていくエキスパート)である。

学生のみんなには申し訳ないが、君らの多くは全くもって即戦力にはならない。人脈もなければ経験もないので、ビジネスチャンスをもぎり取るチカラも、製品開発の戦略を組み立てるアタマも、大きなウェブサービスを運用するノウハウもない。どれだけ頭が良かろうが、おそらく来週の売上やKPIの向上には貢献できない子たちがほとんどだろう。手取り足取り、おっかなびっくりのヒヨッコは、お呼びでないのである。

そんな子たちでも、十分に訓練してもらえる場所がある。大企業だ。大企業は、そもそも新卒に仕事ができることは期待していないし、見込みがある荒削りな人材を、時間をかけて育てていくだけの根気と経験、そして時間と経済的余裕を持っている。人材輩出企業と言われる会社は、この仕組みがしっかりしていて、数年経つと、どこに出しても恥ずかしくないプロフェッショナルが生成される。語弊があるかもしれないが、新卒たちが、リスク管理された環境で成長できる場所なのだ。

ここまでは、99%の学生に当てはまることだ。何も成長したいとのたまう学生に限ったことではない。ただ、成長したいという学生ほど、自分の現時点での使えなさと、自分が思い描いている姿の乖離に悩むことと思う。それをやるには、ベンチャーはリアルに刹那すぎる環境で、そこに身を置くことは、お互いにとって損でしかない。

ベンチャーの仕事は成長できるものばかりではない

ベンチャーの仕事というのは、基本的に泥臭い。スタートアップ系のゆるふわメディアを見ていると、あたかも毎日がエキサイティングで躍動感に溢れていると誤解してしまうかもしれない。が、日々の仕事は、胆力を試されるものばかりである。ビジネスの規模感が安定しているわけではないので、仕事も予期せぬかたちで徒労に終わることも多い。大企業でも、社内政治や市場の流れで、自分が一所懸命に取り組んでいた仕事がオシャカになることはあるだろう。しかし、「すべて計画通りに進み120%の努力をしたのに、結果がまったく伴わなかった」という経験をしょっちゅうできるのは、ベンチャー業界の醍醐味というか、誰も語ろうとしない闇の片隅である。

個人の成長よりも会社の成長、そしてそのためにはどんな仕事も厭わない—これがベンチャー社員に求められるスタンスである。

なので、「成長したいです」というマインドセットでベンチャーにやってくると、これまた期待と現実の乖離に苦しむこととなる。先輩のやっている仕事が華々しく見え、自分のやっている仕事が泥臭い作業の連続に見えるに違いない。ただ自分が働いている会社もそうだが、実はベンチャーこそ、一番泥臭い仕事をしているのは創業者を始めとするリーダーたちである。ただ、少ないサンプル数で言い切るのは申し訳ないが、「成長したいです」という奴に限って、泥臭い仕事をすることを嫌がる。そして、経験があって泥臭い仕事をしている同僚たちから見れば、「使えないうえに仕事を選り好む」扱いづらい輩ができあがってしまい、いろいろと問題が重なってしまう。

いわゆる例外

もちろん例外もある。やる気があり、飲み込みがよく、要領がいいのに愚直な仕事も厭わず、年不相応な知恵と度胸と愛嬌がある学生は、ひょっとしたらベンチャーで即戦力になるかもしれない。

もしこれを読んでいる学生の子が、いわゆる例外にあたる子で、そのうえで、打ち出の小槌状態の日本のVC市場を鑑みても起業する気がないのであれば、ベンチャーに行くというのも、ひとつのキャリアオプションかもしれない。

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