2013-05-28
シリコンバレーの裏側
ぼくは断じてアウトドア派ではないが、去年、今年と「サンフランシスコから自宅のあるマウンテンビューまで80キロほど自転車に乗る」という遠足をしている。
アラサーだし、たまには運動をしなくてはというのも理由のひとつだが、もっと大きな理由として、シリコンバレーの裏側を自分の目で見ることで、視野が内向的になるのを防ぎたいというものがある。
最近Y Combinatorの本も翻訳され、シリコンバレーで起業する日本人も増え、少しずつだが日本でもシリコンバレーの認知度も上がりつつあるようだ。
ただ、こういったメディアから想像されるシリコンバレーというのは、あくまでシリコンバレーの一面でしかないということが、自転車に乗ってみるとすぐわかる。
例えば、Dropbox社のあるChina Basinビルからほんの2、3キロ南下したところにあるBayviewというエリアは、サンフランシスコきってのヤバいエリアである。SOMAにたくさんいるピチピチのDieselジーンズとRay Banのサングラスを身につけたヒップスターは姿を消し、薄汚れたパジャマのようなスウェットを履き、薄汚れたTシャツを着た黒人のホームレスが道路際に溢れている。路上にある車もボロボロの中古車で、銃痕のあるガラスもちらほら、家の窓には鉄格子がかかっている。
サンフランシスコからマウンテンビューに南下するルートは、大きく分けて太平洋側とベイサイド(サンフランシスコ湾)の2つがある。ベイサイドを南下すると、まずサンフランシスコ国際空港が見え、Burlingame、San Mateo、San Carlosといった中上流階級の町が点在している。太平洋側を南下すると、Daly Cityを越え、Pacificaの西を通り、ひたすら280号線に沿って山道を南下することになる。
どちらのルートを通っても気づくことがある。町から町、地域から地域の貧富の差がとても激しいということだ。
いかにも中産階級の町San Brunoや、どこの王様のお屋敷だと思う家が立ち並ぶAtherton、蒼蒼とした街路樹が清然と並ぶPalo Altoと、その隣町で全米有数の犯罪都市のEast Palo Alto。富と貧困、カントリークラブとスラムが数キロ四方に共存している。
勿論、日本のメディアも、いわゆるシリコンバレーな日本人もそんなことは書かない、というか、それこそ自転車にでも乗らない限り、彼らだって知る由もないだろう。101号線から見えるのは、ぴかぴかのスタンフォード大学医学部のビルや、IT企業の大きな掲示板広告だけで、廃ビルだらけでゴーストタウン化している付近は、コンクリートの壁で都合良く遮られている。280号線から見えるのは、緑生い茂る山々と、山肌にボコッと建っているアクセスの悪そうな豪邸だけだ。
臭いものには蓋をしろ、である。
最近だとシリコンバレーツアーなるものもあるらしい。Google本社で食事をし、Facebookの前で「いいね!」のポーズをとり、知り合いを通じてサンフランシスコのTwitter本社を見学し、お腹いっぱいで日本に帰るわけだ。「シリコンバレーってすごいね!かっこいいね!」といった無邪気な高揚感と共に。
もちろんそれは嘘ではない。シリコンバレーには夢があり、勢いがあり、巨大な富が毎日生まれている。でもシリコンバレーだって所詮アメリカだ。アメリカが国家として抱えている、手の施しのようがない貧富の差や、笑ってしまうほど杜撰な社会基盤といった問題は、もちろんシリコンバレーにだってあることを、読者の皆さんには知ってもらいたいし、ふだん恵まれた環境にいて、うっかり忘れてしまいそうな自分にも、時折注意を促したいのだ。