2013-01-29

ニホンの珈琲はパーフェクトだよ!

Blue Bottle Coffeeをご存知だろうか?

イーストベイの犯罪多発都市オークランドに焙煎所を構え、Mint PlazaやTriBeCaなど、サンフランシスコとニューヨークに11店舗を持つコーヒーチェーンだ。スタバのような大衆店と一線を画した、厳選された有機栽培の豆を新鮮なうちに使うという職人的なアプローチが、お高くとまった先進的なコーヒー愛好者の心を掴み、爆発的な人気を誇っている。1杯のドリップコーヒーのために、30分から1時間待つなんてこともあるそうだ。

そんなBlue Bottle Coffeeの創立者James Freeman氏が書いた本"The Blue Bottle Craft of Coffee"を友人が貸してくれたので、パラパラと読んでいたところ、面白い話に出くわした。

the blue bottle craft of coffeethe blue bottle craft of coffee

なんとBlue Bottleに多大な影響を与えたのは、日本の珈琲文化だというのだ。Freeman氏は日本の珈琲を高く評価しており、中でも渋谷にある茶亭羽當はベタ褒めで、世界中でもっとも気に入っているカフェだそうだ。本当に大好きらしく、3ページに渡って褒めまくり、茶亭羽當の珈琲とは"an experience that can be as perfect as it needs to be"であると締めくくっている。

シリコンバレーの著名ベンチャーファンドたちが2000万ドル(約18億円)も出資するBlue Bottleのオーナーにこれだけ愛されている茶亭羽當、日本でもさぞかし有名なんだろうと思い、日本の友人たち数人に聞いてみた。

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—Chatei Hatou知ってる?
—知らない?どういう字?
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—チャテイハトウって喫茶店、渋谷にある?
—へえ。知らんわー
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—茶亭羽當ってとこ、コーヒーうまいらしいよ。
—てか茶亭なのにコーヒーなのか。
···

まあ物の見事に誰もチャテイハトウを知らないわけだ。Blue Bottleのシリコンバレーでの流行り方を考えると、ひょっとしたらチャテイハトウは日本よりアメリカでの方が知名度が高いような気さえする。

これは別にコーヒーに限ったことではないが、日本ってマーケティングがとても下手な気がする。質のいいものを作るのだが、それを宣伝したりビジネスにつなげる力が弱いのだ。ぼくが辛うじてわかるのはソフトウェアの世界でも、SeasarやGrowthForecastのような非常に出来が良いソフトウェアが、なぜか国外では流行らない。それでも、国内ですらあんまり流行っていない茶亭羽當に比べたら、幾分よいのだろう。

海外で流行らないだけなら、「日本人は英語ができないから」で片付くが(必ずしもこれが正しい理由だとはぼくは思わない)、今回のコーヒーの件を見る限り、原因はそれだけではないのではと感じるのだ。うまく言えないが、日本人って海外のものには常夜灯に群がる蛾のように飛びつくのに、自分たちも回りにあるものの価値を見いだすのは下手である。ましてその価値を日本国外に発信するとなると、もう壊滅的にヘタクソな場合が多い。

まあビジネスとして大きくすることが必ずしも正義ではないし、限界費用がゼロではない美味しいコーヒーとか伝統工芸品みたいなものは、質を高く保ったままスケールするのは難しい。Blue Bottleにしても、11店舗も展開しながら質の高いコーヒーを提供しているところに投資家たちはビジネスとしての将来性を見いだしているわけで、茶亭羽當のようにひっそりと美味しいネルドリップを淹れていたところで、彼らは目もくれないだろう。

でも、なんか違和感を感じるんだよね。スタバを軽蔑するサンフランシスコのハイソ連中がBlue Bottleで列をなし、そのBlue Bottleの心の師匠である茶亭羽當は、渋谷の駅前でドデカイ下品なスタバのサインの影に隠れているというコントラストに。

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