2011-12-25

日本の本屋さんに行って気がついたこと

日本の本屋さんに行って気がついたことをいくつか。

昼休みにたくさん人がいる

いくつかの大きめの本屋さんに平日のお昼時に行ってみたが、どこも立ち読みしている会社員の人たちでごった返していた。ランチをしてから残りのお昼休憩の時間に、興味のある本を立ち読みするみたいなコースが確立されているのだろうか。アメリカでは見たことがない光景だ。詳しく調べたわけではないが、この昼時ラッシュは本屋さんの売り上げにどれほど貢献しているのだろうか。

最近、本屋で本を買うことは少なくなったが、今でも少し時間を持て余すと、ぼくはふらっと本屋に入る。というのも、本屋ほどbook discoveryに適した空間はないからだ。確かに本を購入するという点ではオンラインで買った方が手軽だし、スペースのことを考えると物理的な本よりは電子書籍の方がよい。だが、果てしなくある数の本の中から自分のタメになる・楽しめる本を探してくるというのは容易ではない。Amazonなども「閲覧」よりも「検索」に最適化されているように思える。

そこで本屋の出番だ。本屋さんには、三次元の物理的な空間を活かした数多くのレコメンドシステムが実装されている。例えば、多くの本屋さんでは、出入り口の近くに、話題の本が山積みにされており、その後ろに客の目をひくコピーが大きく印刷されたポスターがあったりする。他にも、人気の書籍を展示した棚がドカーンと入り口の近くにあったりと、「その本の入り口までの距離=その本の人気」といった配置がなされている。

もう一つの本屋さんの特徴は、書店員さんが書く一言レビューだ。書店で働いたり、アルバイトしたりする人たちは、十中八九本好きなので、彼らのオススメには一定の信憑性があるというのが、ぼくの理論だ。もちろん書店員さんと自分ではテイストが違うけれど、舌の肥えた美食家が褒めるレストランに激マズなものがないのと一緒だと思う。Amazonなんかでもレビューは充実しているが、逆にたくさんありすぎて、どのレビューを信用していいのかわからなくなってしまう。

ベージュのトレンチコートを着て、黒い鞄を革靴の間に挟み、少し物憂げな顔で「嫌われないボスの◯◯の法則」1を立ち読みしているオジサンを横目に、いろいろ大変だろうけど、本屋というビジネスには生き残ってほしいと思った。

文庫本はよくできている

久しぶりに文庫本を買って読んだが、その質とコストパフォーマンスの高さに驚かされる(これは、今は漫画編集者をやっている友人が中学時代にも言っていたと思う)。アメリカで売っているペーパーバックよりも安く、コンパクトで、そのうえ頑丈でボロボロになりにくい。アメリカでは、最近発売された79ドルのKindleが、小さくて携帯しやすいと話題になっているが、ほぼ日本の文庫本と同じサイズである。値段という意味でも、一冊500円前後の文庫本は、決して高くはない[^2]。

そう考えると、Kindleをはじめとする電子書籍が日本で流行らないのは、出版社や作家からの圧力だけではないのかなと。文庫本になくてKindleにあるものは、スペース的な効率だ。でも逆に、文庫本にできてKindleにできないことも多々ある。例えば「パラパラとページをめくって流し読みする」というのは、どうしてもEリーダーでは難しい。文庫本という優秀な非電子出版のテンプレートがある日本では、Kindleも一長一短に思えるのだろう。

すごい自己中心的な話をすれば、日本に住んでいないぼくにとっては、なんらかのかたちで日本語の本が電子書籍化されるとうれしい。もっと沢山本を紹介してアフィリエイトの恵みを受けることもできるだろうし。やはりアメリカに戻ってくると、読むのは英語の本ばかりになってしまう。

「女性作家」

かなりショックだったのが「女性作家」というコーナーがあったことだ。まあ「男性作家」というコーナーもあったので、数あるオントロジー的な分別基準のひとつと言ってしまえばそれまでだ。だがアメリカでは、絶対考えられないことである。アメリカの歴史は差別の歴史なのだが--いや差別の歴史だからこそ--人々はとにかく差別に過敏である。女性の作家だけを集めたセクションなぞつくろうものなら、そこら中のフェミニスト団体からクレームが来るだろう。個人的には、性別も、文化や言語のように、作風や視点に大きな影響をおよぼすと考えているので、性別で作家をわける[^3]のもありかなと思っている。
今回は10日間しかいなかったこともあって、古本屋さんに行く時間がなかった。次回は古本屋さんめぐりなんかもできたらなと考えている。

  1. 正確なタイトルは覚えていません。

  2. 日本の文庫本とアメリカのペーパーバックは、どちらが高いとは一概には言えない気がする。調べたわけではないが、アメリカの方が、本の最低額が高い気がする。「えっこれっぽちの内容で10ドルなの!?」という経験はよくある。なので、短いエッセー集とか詩集について言えば文庫本の方が安いだろう。でも逆に、日本には長い本を分冊化する傾向があるので、アメリカだったら分厚い1000ページのペーパーバックで15ドルのものが、日本だと文庫で4分冊ということもある。

  3. 世の中には性転換をしたり、性障害の人たちもいるので、あえて「性別で二分する」とは言わない。性には様々なカテゴリーがあると考えている。

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