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Kindleにないもの

タイトルは完全に釣りである。Kindleというよりか、電子書籍リーダーにないものだ。ただ、「Kindleにないもの」というタイトルにすれば、「KindleにはないけどKoboにはある...!」みたいな雰囲気を醸し出すことができ、姑息にクリック数を増やせるかと思ったのだ。

ちなみにKindleになくてKoboにあるものも当然ある。三木谷さんの煮えたぎるほとばしる情熱とか。書籍数の水増しとか。まあいいや。

電子書籍リーダーになくて、紙の本にあるもの、それは表紙である。もっと正確に言えば、通りかかった人とか、喫茶店で近くに座っている人が、本を読んでいる人の肩越しに覗き込むことなく、何の本を読んでいるか判断できる表紙である。

昨年、空港で夜を越すことがあった。まだKindleを持っていなかった時で、ペーパーバックでCatch 22を、床に座りこんで読んでいた。すると、トイレを済ませ、本屋の店番に戻るおじさんが、話しかけてきた。

—その本、読もう読もうと思っているんだよ。
—いい本ですよ。といっても以前は内容がよくわからなかったので、再読しているんですが。
—ほう。まあ楽しんで。夜は冷えるぞ。

おじさんは、斜め20度傾いた放物線のかたちをした腹を左右に振りながら、本屋に戻っていった。

今日、近所のコーヒーショップで一仕事終え、帰宅しようとしたところ、パティオ席のテーブルの上にあるInfinite Jestが目にとまった。1000ページを超えるDFWの代表作だが、難解でひたすら長いので、コーヒーショップで遭遇するのは初めてだった。ということで、横に座っている本の主に聞いてみた。

—DFWのファンですか?
—DFW?
—David Foster Wallaceです。
—あー!はい。

ほんの5−10分だったが、Infinite Jestは、まとまった時間がないと、なかなか読めないこと、DFWの圧倒的な語彙と観察力などの話で盛り上がった。もう5ヶ月近く読んでいるそうだが、しおりはまだ真ん中に挟まっていた。

空港の話もコーヒーショップの話も、他愛のないエピソードである。別に運命的な出会いがあったわけでも、奇跡的な発見があったわけでもない。ただ、両方とも、表紙のおかげで、会話につながったのだ。みんながみんな本の表紙をきっかけに赤の他人に話しかけるとは思えないが、個性ある表紙を纏った本達が、のっぺらぼうの電子書籍リーダーにすり替わることで消える会話というのも少なからず存在する。 [1]

Kindleは便利だ。Koboも多分便利だ。ただ、便利さの裏で、失われるものもあるのかなとしみじみ感じていたら、午前1時をまわってしまったので、寝ることにする。


  1. よくシリコンバレーのスタートアップは、宣伝目的でTシャツを作り、それをバラまく。そして、多くの人が、思惑通りにそのTシャツを来て、歩く広告塔になる。ただ、最近思うのは、宣伝効果もそうだが、スタートアップTシャツのもう一つの役割は、有機的なネットワークをしやすくすることなのではなかろうか。ぼく自身、何度も「〇〇(相手が着ているシャツに書かれたスタートアップの名前)で働いているの?」という質問を聞いたことがあるし、聞かれたことがある。

2012-09-30