2020-09-07

話を最後まで聴けるためのメモの取り方

僕は人の話を聴くのが苦手だ。

相手の言いたいことが概ねわかると、つい質問したくなってしまう。結果的に、話を脱線させてしまったり、本当に聞き出すべきことが聞けなかったりする。相手の話を聞き流すよりはマシなのかもしれないが、良い聞き手とは言えない。

社会人になった頃は、まだ良かった。僕に全く社会的地位とか、職場においての影響力といったものが無かったからだ。「いいから最後まで話を聞け」と、先輩や上司によく諭されたものだ。先輩方には迷惑をかけたが、それでも影響範囲は、基本的に自分だけだった。

だんだんと歳を重ねるうちに、相手の話を聴くことそのものが、仕事になった。これは、お客さんの話もそうだし、部下や同僚の相談や愚痴も少なくない。ありがたく頂戴している給料のほとんどが、人の話に耳を傾け、助言をすることの対価といっても過言ではない。

そんな経緯もあり、いよいよ「話を最後まで聴けない」悪癖を直す必要が出てきたのが、この数年である。

いろいろ試した結論としては、紙とペンでメモをとりながら聴く、というのが一番効果的だったので、ここで紹介したい。全国に百人くらいは存在するであろう「最後まで聴けない病」の同胞たちの参考となれば幸いだ。

  1. 相手の論点をメモしながら聴く。メモは必ず紙とペンで。
  2. 相手の言っていることでわからないことがあれば、聞こえたままメモした上で、「?」を先頭につける。先頭につけるのは、質問をメモる時の文末につける疑問符と区別しやすくするため。
  3. 反論や、意味確認を超える踏み入った質問があれば、まず質問そのものをメモ。
  4. 最後に、相手が話し終わったことを確認してから、順番に質問していく。質問する時間が限られるので、優先順位を決め、ひとつずつ質問していく。相手の回答も新しい話と捉え、ステップ1に戻り、再帰的に対応する。

このやり方にはいくつかポイントがある。まず、絶対に紙とペンでメモを取ることだ。個人差があるかもしれないが、手で「書く」という行為が、発言衝動を抑えつつも、相手の話に集中できる、という二つのゴールを同時に満たしてくれる。特にステップ3の反論・質問部分は、いったん文字に起こして自分で読むことで、どういう聞き方をしたら答えやすいかチェックできるし、話の腰を折らずに済む。この部分に限って言えば、手で書かなくても、スマホやPCでもできるのだが、自分の場合は、気が散ってしまう。また、対面でもZoom越しでも、スクリーンを注視していると、内職しているような印象を与えるので、やはり紙とペンの方が良いと思っている。

もうひとつのポイントは、相手の話が終わったことを、必ず確認してから、質問を始めることだ。相手の話が長いと、質問する時間がなくなるんじゃないかという懸念があるかもしれない。だが、ここで大事なのは、相手の話を最後まで聴くことであり、相手の話と自分の理解を同時に達成することではない。なので、とにかく相手に最後まで話させることを優先する。どうしても時間ギリギリになってしまったら、「あと〇〇分しかないので、悪いけど、ひとつだけ質問してもいい?」と尋ねればよいし、自分の質問が終わらなかったら、「残りの質問は、後でメールで送りますね」とでも言えばよい。話の長い人ほど、自分の話した内容を覚えてないことも多く、質問への回答として、「そんな話しましたっけ」と逆に質問されることもある。その場合、あの話は本人にとってさほど重要では無かったんだな、という新しい気づきが得られる。

最後に、このメモの取り方の最大の副産物は、自分の聴解能力がどれほどのものか、知ることができるということだ。人の話を理解する、というのは、実は結構エネルギーのいる作業だ。実際に上に書いたようなプロセスで人の話を聴いていると、脳も手もフル稼働になる人が多いだろう。少なくとも僕はそうだ。「話を最後まで聴けない病」のリハビリを通じて得られた最大の気づきは、自分はそれほど脳のキャパが大きくはないということ。内職をしている暇も、スマホの通知をチェックする余裕もない。早口の人だと、「ちゃんと理解したいから、もう一度お願いできますか」と頼むこともあるくらいだ。

今では、その自分の等身大のキャパに満足しているし、だからこそ、人の話を聴く時は、副業をしないよう努めている。とどのつまり、ここに書いたメモの取り方が意味するところは、今までの若さゆえ(であってほしい)の「俺は相手の話を聴きながら、副業しながら、知性溢れる気づきを得ながら、それを新しいアイデアとして言語化できる」というナガラ星人的奢りに気づいたとも言えそうだ。

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