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「あなたは商品である」の二つの意味

ツイッター

最近ツイッターが炎上している。ツイッター「で」ではなく、ツイッター「が」である。というのも、この半年くらいの間に、ツイッター社はAPI周りの方針を変えつつあり、そのやり方が、第三者によるクライアントソフトウェアの開発を制限するものだからだ。勿論この手の話は、ブロガーたちにとって格好のネタである。この件に触れた数あるブログ記事の中で、個人的には、このJohn Gruberのコメントが、辛辣さと図星度という点から見て、最優秀賞だと思う。

しかしまあ、なぜここに来て、第三者によるクライアントが問題なのだろうか。ぶっちゃけてしまえば、ツイッターも、ベンチャー資金をフル搭載した会社である以上、もっと売り上げを伸ばしていく必要があり、その一つの手段として広告をツイートに混ぜて表示するというビジネスモデルを考えているからだ。最近ちらほら見るPromoted Tweetというのは、広告ベースのビジネスモデルの第一歩だといっていいだろう。

しかしツイートに混ぜた広告からの収入というビジネスモデルを考えだすと、真っ先に問題になるのが第三者によるクライアントなわけだ。第三者デベロッパーは、自分たちのつくるクライアントの中で、広告を外したり、ツイッターと契約した広告主ではなく、自分たちで提携した広告主を優先したりすることができる。そうするとツイッターにはお金が入ってこないわけで、ふざけんなという話になるわけだ。とてもカンタンな話である。

ぼくは、クライアントを開発している第三者デベロッパーをどう扱おうが、そんなものはツイッターの自由だと思っている。5億人のユーザーを有し、毎日3.4億のツイートを生み出し、16億回以上ユーザーによる検索が走る、この巨大なプラットフォームの主は、他でもないツイッターだ。自分たちで作ったものを、どう変更しようが、それがユーザーとの契約に反していない限り、彼らの自由だ。

身も蓋もないことを言ってしまえば、ツイッターが第三者クライアント開発者を虐めようが、全力で潰そうが、そんなことで大多数のユーザーは逃げてはいかないだろう。二度と働いたり、ゴマを擦ったりしなくてすむだけのお金のことを、英語で"Fuck you money"というが、ツイッターの場合、"Fuck you money"ならぬ"Fuck you platform"なわけだ。

最近よく聞く表現で、こんなものがある。

"If you're not paying for it, you are not the customer, you are the product being sold"

お金を払っていないアンタは顧客じゃない。売られる立場の商品だ。

これをツイッターに当てはめると、びた一文払わずツイートを読んで笑ったり、セルフプロモの媒体として使ったり、コミュニケーションの道具として役立てているユーザーたちは、顧客ではなく、商品なわけだ。商品だからこそ、我々の情報は広告主に渡り、ひとりひとりに最適化されたpromoted tweetが送りつけられてくるわけだ。それを送りつける自由がツイッターにはあるし、それを拒む権利は、迂愚な商品である我々にはないということだ。

ソフトウェアセールス

仕事柄、ソフトウェアを売ることについて色々と考えることが増えた。ソフトウェアの業界も、ものを売るという仕事も、まだまだ素人なので、いろいろと本を読んで勉強しているところなのだが、今のところ一番よかったのは、"Don't just roll the dice"という本だ。

80ページほどの短い本だが、どのページにも、言われれば当たり前だがなかなか気づけない、あるいは行動に移せていないことが書いてある。中でも印象に残ったのが、以下のくだりだ。収穫逓減の法則を考えた時に、限界費用がゼロであるはずのソフトウェアが、なぜタダにならないのかについて、こう述べている。

For a start, as already discussed, you are not just selling bits and bytes. You’re selling a whole bunch of stuff around it, including support, documentation and hand-holding. Your customers are buying man-years, decades even, of your past, present and future blood, sweat and tears. Is that worth $100? Or $1,000? Heck, yes, and you should tell that to your customers.

先にも述べたように、あなたはバイトの寄せ集めを売っているわけではありません。それに付随するサポートやドキュメンテーション、丁寧で適切な導入の手助けを売っているのです。あなたのお客さんが買っているのは、数年、ひょっとしたら数十年に及ぶあなたの血と汗と涙なのです。それが100ドルに値するか。当然です。そして、あなたは、お客さんにそう伝えるべきです。

この指摘は適切すぎて、何も加えることはない。ソフトウェアを売ったことがある方は共感してもらえるだろうが、開発は、ソフトウェア商売の一部でしかなく[1]、顧客にとってのソフトウェアの価値は、購入後のサポートに大きく依存している。それもそのはずで、自動的にコピーできるソフトウェア本体とは違い、サポートは顧客ひとりひとりに対応する必要があり、どう考えても限界費用はゼロではない。

つまり、ソフトウェア商売においては、先のツイッターの話とは全く違う意味で、「あなたは売られる商品」なのだ。これは、ソフトウェアを売るビジネスに関わっているものとして、常に肝に銘じておきたい。


  1. 語弊がないように言っておくと、もちろん最初にソフトウェアありきである。無いものは売れないわけだが、売れるものがあるからといって売れるわけではないということだ。

2012-08-28