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シリコンバレーのファーストサムライ

サンフランシスコにある福利厚生サービスのスタートアップ、AnyperkのCEO、福山太郎のことである。

先週、オタクの自己満スレとして名高いHacker Newsで、その福山くんがフォーブス誌に寄稿した記事に出くわした。"We Just Thought, 'This Is How You Start a Company in America'"というタイトルは、無粋を承知で訳せば、「アメリカで起業するってこんなもんじゃね?」だろうか。茶目っ気溢れる彼らしい掴みである。

ぼくが最初に福山くんに会ったのは、2012年の冬だ。割と意味不明なアイデアを胸に、シリコンバレーの登竜門Yコンビネータに乗り込んできた彼は、底抜けに明るい、何も考えていなさそうな青年だった。彼の小学校の同級生が、ぼくの大学の後輩だったことなどもあり、初対面だけど割と打ち解けたのを覚えている。「ぼく、全然モテないんすよー」と屈託なく笑う、24歳の好青年だった。

それからたった2年強で、拙いながらも清々しい英語で(おそらく自分で書いた記事なのだろう)、月5000万人が訪れるforbes.comから発信するビジネスマンになった。最近も一緒に夕飯を食べたのだが、その存在感と落ち着きをみて、再確認した。起業は人をつくるのだと。

この数年、シリコンバレーも東京も、起業する人が増えた。実際シリコンバレーにも、日本人が中心となって作ったスタートアップは結構あるし、アメリカのスタートアップで働く日本人も増えてきた。ただその中で、福山くんが圧倒的に持っているものがある。ステロタイプな日本人像を利用するあざとさと、日本人であることに拘らない潔さだ。

アメリカにいる日本人は、ステロタイプな日本人像に当てはめられることを嫌がる。SNSやメディアを見ていると、いかに自分たちが現地の文化に同化しているかを、(日本語で)アピールする人が多い。ぼくも移民なので、コンプレックスの裏返しとしてステロタイプに反発する気持ちが分からないわけではない。アメリカに来た最初の数年は、自分のヘタクソな英語がコンプレックスだったし、大人になってからは、親のつたない英語を恥ずかしく思った。「おれは他の日本人とは違うんだ」みたいな矮小なコンプレックスがあったのだろう。

しかし福山くんは、そういうステロタイプを、見事逆手にとってAnyperkの宣伝材料にする。シリコンバレーのクオリティメディアに「Anyperkは、イチロー以来の最高の日本からの贈り物?」と書かせたり、「13人のヤバい移民」に選ばれたりと、とかく福山くんの露出作戦には、「日本」の二文字が見え隠れする。しかし、彼のやり方は絶妙で、「無表情のスーツ姿に文字だらけパワポの、気持ち悪い連中」としてではなく、「アニメとかファミコンを生んだ、ファンキーな国のぶっ飛んだガキ」として描かせることで、定期的に異物を吸収しないと具合が悪くなるアメリカ、特にシリコンバレーに受け入れられる日本人像を演出できているのだ。

ニンゲンおもしろいもので、在米日本人の多くは、ステロタイプを忌み嫌うわりには、生活習慣は日本人のままで通そうとする。日本人とつるみ、日本食のレストランがオープンしたと言えば並び、日本語で情報を仕入れる。別にそれが悪いとは言わない。けれど、そういうケースを見れば見る程、社員と英語でとことん話し合い、全国放送のインタビューに淀みない英語で答え、死ぬ気でアメリカの会社のCEOになろうと日々努力している福山くんが、際立って見えてしかたない。

ぼくは性格が悪いので、先日の夕飯の帰り道、どうにかしてブログで茶化すネタがないかと思い、「日本とか日本語は恋しくないのか」と、かまをかけてみた。毎朝のトレーニングの賜物だろうか、まったく息切れもせずにサンフランシスコの急勾配をスイスイ登る彼は、よく通る高らかな声で、こう言った。

「そりゃーありますよーでも何にもないところから仲間と始めた会社が、少しずつだけど大きくなってって、それと一緒に自分もたくさん悩んでたくさん決めてって。これはずっとやってたいですよね。ぼくはアメリカで会社をつくるんだってこっちに来て、それが今できているから、それが何より嬉しいっす。いけるところまで、このチームでいきたいっすね。」

2014-10-31