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W杯:Uberの車窓から

3か月前にサンフランシスコに引っ越して以来、Uberを利用するようになった。

Uberは、日本でも最近サービスを開始したので、既知の人もいるかもしれない。いわゆる白タクの配車サービス[1]で、時価170億ドル(1兆7千億円)という破竹の勢いの会社だ。スマホアプリでさくっと呼べて、すべてクレジット決済なので財布を出す必要すらない。乗用車の運転手が下手で横柄で短気で自己中心的でマジファックな人が多く、なんといっても駐車スペースが枯渇しているサンフランシスコでは、Uberは欠かせない存在になりつつある。アクセスの悪いところへ行くときや、夜、歩いて帰るとカツアゲにあいそうな時にも重宝する。

ぼくは運転手に話しかける癖があり、それはUberの白タクでも一緒だ。そしてもっぱら最近の話題は、W杯である。

🚖 運転手マリーシオさんの場合

—ワールドカップ見てます?
—もちろん見てるよ
—でも運転してるでしょ
—仕事中は我慢してる
—へーやっぱりブラジルが優勝するのかなあ

丁度赤信号になった。皺ひとつないツルッツルのキャラメル色の顔が、墨色のヘッドレストたちの間からパッと見えた。超真顔である。

「当たり前だろ」

マリーシオさん、ブラジリアン!

🚖 運転手シフェローさんの場合

—ワールドカップ見てます?
—見てるよ
—へー。おじさん出身どこ?
—エチオピア
—エチオピア!バレンシア通りのエチオピアカフェにこの前行ったわ
—あそこは不味い
—へぇ。エチオピア人的にうまいエチオピア料理屋って、サンフランシスコにある?
—ない
—エチオピア人ってここら辺たくさんいるの?
—あんまいない。オークランドにちょっとコミュニティがある

—お前はどこの出身だ?
—生まれたのは日本だよ
—昨日は残念だったな
—コートジボアール強かったからね
—俺はコートジボアールのプレーは嫌いだ
—なんで
—あんまり協調性がない。日本はチームワークを大事にするから好きだ
—同じアフリカ勢として応援とかないの
—ない。ナイジェリアは特にない
—なんで?
—エチオピアがアフリカ予選で負けたから
—アフリカは、たくさん国あるからね。アフリカ予選大変そうだね
—55も国があるからな。それでいてW杯に出れるのは5つだ。アルジェリア、ナイジェリア、コードジボワール、ガーナ、カメルーン
—熾烈だね
—熾烈だ

高速に乗った。アメリカのタクシーの運転手さんには珍しく、とても穏やかな運転だ。速度制限も遵守している。

「熾烈だけど、W杯はいい。サッカーの争いはピッチの上だけだ。それもアフリカだけじゃなくて世界中の国が」

シフェローさん、何歳だろうか。彼の訛りの強い英語を聞く限り、渡米したのは大人になってからだろう。エチオピアで何の仕事をしてたんだろう。Uberの前はなんの仕事をしてたんだろうか。

—着いたぞ。次は勝てるといいな、日本

(結局、引き分けだったんだけどねorz)

🚖 運転手オレッグさんの場合

—ワールドカップ見てます?
—見てるよ。お客さんも見てる?
—見てる見てる
—どこ応援してんの
—日本
—あーこの前は残念だったな
—でもコートジボアール強かったからね
—強かったな
—運転手さんはどこ応援してんの
—おれ?アメリカに決まってるだろう。おれはアメリカ人だぞ

ぶっちゃけアメリカでは、サッカーは第二、第三のスポーツだけどな。

—アメリカ、初戦ガーナだよね
—そうだ。今から楽しみだよ
—勝てるかなあ
—絶対勝てる

訛りを聞く限り、アメリカ生まれではないだろう。ただこの根拠なき絶対的自信は、彼がいかにアメリカ人かを物語っている。

—お客さんはどこ応援してんの
—日本と韓国かな
—なんで
—日本は生まれた国だから。韓国は同じ東アジアだから
—韓国はおれも応援してる
—え、なんで?
—相手がロシアだから
—何w冷戦アゲインみたいな?

助手席の後ろの席から、小麦粉のように白い横顔と、紺碧の瞳がちらっと見えた。

「冷戦?そんなに遡る必要はない。おれはウクライナ人だぞ。打倒ロシアだ」

どうやらピッチ上だけの争いではないようである。


  1. 個人的には、Uberは非・未稼働の労働力のマッチングプラットフォームであって、配車サービスはその第一弾に過ぎないと思っている。まあ本題から逸れるので、この話はいいや。

2014-06-21