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「尊重されたいすべてのソフトウェアエンジニアへ」を読んで

最近fluentd界隈でご活躍の@tagomorisさんが書いた、「尊重されたいすべてのソフトウェアエンジニアへ」という記事が大人気のようだ。

大人気のものには便乗するのがquippedのやり方なので、ぼくの個人的な意見を少し書いてみたい。

結論から言ってしまえば、ぼくは@tagomorisさんの意見に同意だ。失礼を承知で言うと、彼の言っていることは至極当たり前で、

  1. 仕事の外でも頑張れ。
  2. せっかく頑張ったんだから発信しろ。
  3. ソフトウェアの世界では1+2の費用対効果がデカい(はず)

という3点だと思う。ぼくが興味深く感じたのは、彼が努力だけではなく、ある種の自己PRを促していることだ。これは大人になってわかったことだが、「実力さえあれば誰かが見いだしてくれる」なんてのは傲慢はなはだしく、黙っていては誰にも気づかれずに終わる場合がほとんどだ。ソフトウェアに限ったことではないけれど、日本人は相対的に自己PRがあまり得意ではない気がする。謙虚さを尊ぶ文化だから云々といった、「菊と刀」的な文化人類学的なセオリーを語る気はまっさらない。ただ現実的な問題として、世界の(一応の)公用語である英語が(相対的に)ヘタクソであることもあいまってか、自分たちの魅力を宣伝することが効果的にできていない日本人が多いと思う。いきなり自己PRと英語の双方に取り組むのは難しいのかもしれないけれど、まずは日本語でもいいから、自己PRをはじめるというのは、決して悪いことではない。もちろんPRするだけの下地になるものは必要で、それについては@tagomorisさんも言っているように、仕事の外でも頑張るというのは効果的な手段だと思う。[1]

そんでもって自己PRにつなげるためのアウトプットの話になるのだが、何も画期的である必要はないと思う。そりゃ世界的に有名な島根のオジサンみたいに宝石の名前がついたプログラミング言語を開発したり、宇都宮の中卒フリーターみたいに、その言語の開発に若くして関われれば、公なアウトプットとしては申し分ない。AKBのメンバーの数を超える数のPerlのライブラリを書く白駱駝になるのもありだ。アメリカはシリコンバレーでも使われるシリアライザ発案するってのも悪くない。

でも、そういうギークの王道的な仕事だけがアウトプットではない。

例えば、@tagomorisさんの記事でScribeのコンパイルの仕方およびHDFSへの繋ぎ方を書いたものがある。読んでもらえればわかると思うが、例え仕事で必要だったにせよ、これだけ詳しく書くのは根気もいるし、何といっても地味な作業だ。他にも@tagomorisさんのブログには、細に入ったベンチマークなど、シブい有用な記事が沢山載っている。また、昨今の日本におけるfluentdの普及にも、@tagomorisさんは大きく寄与している。地味という意味では、いろいろなプログラミング言語のマニュアルやレファレンスを和訳するという作業もそうだ。英語で頑張って読めと言う人もいるかもしれないが、現実問題として、日本語を母語にしている人にとっては日本語でマニュアルを読んだ方が圧倒的に効率がいいし、訳が適切ならば、誤解も少なくてすむ。もちろん新しい技術を開発する人も偉いが、開発された技術を地道にローカライズしたり、性能や機能をきちんとドキュメントする人たちも、同じくらい偉い。彼らのアウトプットによってどれだけの時間が節約されているか考えてみれば、その重要性が理解できることと思う。ただ悲しいかな、こういった作業というのは、なかなか注目してもらえない。ドキュメンテーションなんてあって当たり前だと思っている人たちがほとんどだ。そういう意味でも、むしろ王道的ではないアウトプットをしている人(つまりマイノリティのマジョリティ)ほど、どんどん自己PRをしていくべきなのだ。

周りだってバカではないので、きちんと伝わりさえすれば、地味だけど重要な仕事をしている人というのは、自然と尊重されていくと、ぼくは思っている。「偉い人にはそれがわからんのです」と昔(というか未来というかパラレルワールドで)誰かが言っていたが、わかるように伝える責任というものも、忘れないようにしたい。


  1. ぼく個人は、仕事の外で必ずしもアウトプットをする必要はないと考えている。仕事が実際に殺人的に忙しい人もいるだろうし、仕事そのものが公開できる(例えばMozillaで働いているとかFacebookでHiveを作ったとか)という人や、働いている会社が超ビッグネームで、そこで働いていたというだけで認知されたり、対外のつながりができる人もいる。でもみんながみんなそんな恵まれているわけではないということも付け加えておきたい。

2012-06-08