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採用について思ったこと

最近、採用について考えることがあった。

ぼくが知っているのは金融、それもトレーダーの採用と、ソフトウェア産業、それもエンジニアの採用だけだ。一見まったく違うふたつの職種だが、採用プロセスに関して言えば、結構似ている。具体的に言うと、両方とも、面接官が問題を与え、それを希望者がその場で解くというものが多い。もちろん、「この人はうちの会社でうまくやっていけるだろうか」といったフィット的なことも質問するし、経験豊富な人材なら、前職での仕事内容を聞いたりもする。ただ、最低でも一問くらいは、「この確率問題を解いてください」とか「この関数を実装してください」といった、答えが比較的はっきりした、大学受験的な問題を聞くようになっている。

この大学受験的な問題の使い方は、大きくわけてふたつある。絶対的評価と、相対的評価だ。絶対的評価の場合、あらかじめ基準を定め、それと比較して、どれだけ面接者が正しい(とされる)結果を導き出せるかを見るというものだ。いわゆる「できて当たり前」な問題は、絶対的評価のもとに行われることが多い。その一方、相対的評価は、「他の面接者と比べ、どれだけ結果を出せたか」を見ることになる。難度の高い問題や、いくつものステップがある問題の類は、この傾向が強い。例えば、前に友人から聞いた問題で、「まっさらの仮想サーバーを貸しますので、2時間以内に、株式の銘柄を入力し、ボタンをクリックすると、最新の株価が出力されるウェブアプリを作ってください」というものがある。友人いわく、MySQLやPHP/Perl/Rubyをインストールし、簡単なテーブルを定義し、データを取ってくるスクリプトを書き、そのデータに対してシンプルなHTMLを記述する「だけ」なのだが、大体の人は、最後まで到達しないそうだ。なので、最後まで到達した人には、彼は無条件で高評価を下すらしい。ここで重要なのは、友人の論理は、「この難しい問題が解けたから、この面接者はすごい」ではなく、「大体の人が終わらない問題を終わらせられるこの面接者はすごいに違いない」だということだ。彼自身が、問題に対して絶対的な評価基準を持っているのではなく、評価基準が、面接者の実際のパフォーマンスによって、後から設定されているというわけだ。

ここに、採用における相対的評価の問題点がある。それは、相対的評価は、目下の面接者の能力を、他の面接者としか比較していないという点だ。これの一番の問題は、面接者の質が総じて低かった場合、さして能力が高くない面接者に、誤って高評価を下してしまうことだ。先の友人の例だと、彼が面接する人たちが、(少なくともちゃっちゃと簡単なウェブサイトを作るという点において)、みんな能力が低いだけかもしれず、例え2時間で株価ビューアが作れたとしても、それが必ずしも高く評価される程の能力ではないということも考えられる。株価ビューアを1時間で作った人を喜び勇んで採用してみたが、実際の業務をやらせたら、イマイチだったなんてことは、容易に考えられる。

じゃあなんでもかんでも絶対評価にすればいいというわけではない。そもそも絶対的な評価を下せない問題もあるし、絶対的評価にこだわると、逆に質の高い人材を取りこぼす怖れもある。例えばこんな話が考えられる。

ボス:「おい、今日面接した人たちはどうだった。」

エンジニア:「全員×です。もう人事にレポートしときました。」

ボス:「え?どうダメだったんだ」

エンジニア:「いやあ○×アルゴリズムを実装してくださいって言っただけなんですけどね。誰も出来ないんすよ。」

ボス:「お前、その話マジか。」

エンジニア:「マジっすよ。誰も書けないんすよ。」

ボス:「バカ!○×なんて書けなくて当然だ。この会社でも書けるのはお前だけだ。」

エンジニア:「え...」

もちろんこの例は極端だが、絶対的な基準は、低すぎる場合には「全員できるから、なんの参考にもならずムダだった」で済むが[1]、高すぎた場合、あるいはとんちんかんな基準だった場合、良い人材をはねてしまうことになり、その人がライバル会社に行ってしまうなんてことも考えられる。

要は何が言いたかったかと言えば、採用って難しいという話だ。もちろん、ぼくが今日書いたことなんてのは、ほんの一部の話で、面接の質問以外にも、給与の設定、合否までのタイムライン、不採用の際の連絡の取り方、面接に割く人的コストなど、いろいろと考えなくてはいけないことはたくさんある。会社での仕事というと、病院なら診察や手術、弁護士事務所やコンサルタィングファームなら案件、ソフトウェア会社ならプロダクトといった主要サービスばかりに目が行きやすいのだが、採用というのは、どの会社にとっても生死のカギを握っている重要な仕事だと、常々思っている。


  1. 簡単すぎる問題の一つのリスクは、優秀な面接者が、呆れたり憤慨したりして、会社に対する興味を失ってしまうというものがあるが、個人的には、このリスクは、「良い人材を見過ごす」リスクよりは低いと見ている。

2012-04-02