2013-10-21

Hipchatの盲点とコミュニケーション能力

いきなりだが、うちの会社では、Hipchatというチャットツールを使っている。社員が2つの時間帯にまたがって活動しており、さらに目を見張るスピードでいろいろな社内プロジェクトが進むので、電話やミーティングといった同期的コミュニケーション手段だけでは、どうしても連絡漏れが起きてしまう。というか、時差がある以上、電話もミーティングも、できる時間帯が限られてしまうので非同期なコミュニケーション手段で補完せざるを得ない。非同期といえば、メールも大事な連絡手段だが、対話的なやり取りでは、Hipchatの方が全然適している…

と、最近まで思い込んでいた。

それ相応に会社が大きくなってきて真っ先に気がついたのは、全員が必ずしもHipchatを使いこなしていないことである。当初は、「なんでお前さんHipchatのレスが何日も来ないんだ」とか「急ぎの用事じゃないなら、口頭だと集中力が乱れるからHipchatで言ってよ」と、疑問と苛立ちを感じたこともあったのだが、とあるミーティングの一コマが、ぼくの考え方を完全に改めさせた。

チームメイトの1人がプレゼン中、自分のExcelモデルの数式を変更しようとした時のことだ。ぼくだったらカーソルをctrl+方向キーでカーソルを目的のマスまで動かしてからF2を押し、数式の一部を変えるのだが、彼はマウスに手をのばし、スクロールバーを動かして目的のマスまで数秒かけて辿りついてから、再びカーソルを動かして画面上部にある数式入力バーをクリックし、用心深く左右方向キーを使ってカーソルをあわせ、人差し指一本でタイピングしながら数式を変更したのだ。

その時、ぼくはふと思った。もしキーボードショートカットを知らない人がHipchatを使ったらどんな感じだろう、と。

Hipchatでは、自分あてにメッセージが来たり、チャットルームの中で名前が呼ばれたりすると、アプリのアイコンが点滅するようになっている。ぼくの場合、アイコンが点滅すると、まずalt+tabでHipchatアプリを選択する。すると画面に出現した複数のチャットのタブの中で、連絡があったタブが赤くなっているので、ctrl+tabあるいはctrl+(左から数えたタブの順番にあたる数)を押して、所望のタブを選択し、来ているメッセージを読むことになる。点滅したHipchatアイコンを認識してからここまで、おそらく1秒強くらいだ。

これが、もしキーボードショートカットを使わなかったらどうだろう?すべてマウスで行うことになるので、なんだかんだいって数秒はかかるだろう。複数のタブで同時に会話をすることになったら、タブの間を往復するたびにマウスに手を伸ばすことになり、やってられなくなるだろう。

別にマウスを使うとHipchatが不便ということではないが、Hipchatの対話性、スピード感というものを最大限活かすには、「ほとんどマウスを使わずにパソコンが操れる」必要があることは間違いない。

仮に自分がマウス中心でパソコンを使う人だったとして、キーボードショートカットを駆使してチャカチャカHipchatのタブを行き来している同僚をみたら、「自分はあんな風にこのツールは使いこなせないな」と疎外感を感じるだろうし、もし自分のタイピングが遅々としていたら、同僚たちがチャットルームでじゃんじゃか送りあっているメッセージのスピードに追い付いていけず、発言しにくく感じるだろう。

「Hipchatが便利なコミュニケーションツールだ」というのは、あくまで主観であって普遍的な事実ではなく、「なんでみんなもっとHipchatを使わないんだ」というぼくの苛立ちは、「みんなが自分のようにコンピューターを使っている」という思い込みに起因していたのだ。これに気づいた時は大分恥ずかしかった。

それ以来、Hipchatを使わない同僚が、どういう風にコミュニケーションをとっているのか注意深く観察することにした。その結果、みんな何か一つは、「すぐレスがもらえ」、「能動的に使っている」非同期コミュニケーションの手段を持っていることに気づいた。それはHipchatだったり、Eメールだったり、留守電メッセージだったりと、個人差はあるが、みんな何か報連相が円滑に図れる手段を持っている。それがわかって以来、ぼくはHipchatに固執することをやめ、その人の得意なコミュニケーション手段になるべくあわせるように心掛けるようにしている。

一連のHipchat問題を通して、「コミュニケーション能力=思いやり」なのではないかと考えるようになった。コミュニケーション能力は、企業が学生に求める能力No.1らしく、ググるとコミュニケーション能力改善に関する指南書がわんさか出てくる。ただ、有象無象の小手先のハウツーに走るよりも、相手のことを思いやって深く考えて行動するだけで—「自分が何の背景も知らずにこのメールをもらったらどう思うだろう」「自分がお客さんだったら何を言われたら嬉しいだろう」「これは果たして自分が言うべきことだろうか」「自分がこの時間にメールをもらったらどう感じるか」—コミュニケーション能力というのは大幅に改善されるんじゃないだろうか。

…てなことを書いてたら、同僚から来てたHipchatを放置してしまっていた…(//∇//)

Creative Commons License