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SaaS:スラムダンク・アズ・ア・スタートアップ

以前書いた記事で、Perfumeはスタートアップのお手本というものがある。当時ぼくは、今働いているスタートアップに入社したばかりで、ほとんど何も実体験がないまま、又聞き半分、妄想半分をベースに書いたのだが、これがなかなかバズってしまった。物書きの端くれとして、自分の書いたものがバズったことは嬉しかったが、実体験に裏付けされてないものが共感を呼んでしまい、少し困惑したのを覚えている。

それから一年と少しが経ち、そのスタートアップの創業メンバーの一員として、それ相応の実体験を積ませてもらっている。その体験を元に振り返ると、想像に任せて書いたPerfumeの話は、けっこう的を射ているのだが、やはり実体験を経てこそわかることもあるので、今回第二弾を書くことにした。そういう意味では、今回の話の方が、ずっと地に足がついている。

題してスラムダンク・アズ・ア・スタートアップ("Slam Dunk as a Startup"、略してSaaS[1])である。

ぼくは1985年生まれなのだが、同じ世代の日本人の男の人でスラムダンクを知らない人は、稀だろう。一言で言ってしまえば「青春バスケ漫画」だが、その内容の濃さと散りばめられたアフォリズムには、漫画という枠組みを超えた普遍的なスゴさがあり、非常にメッセージ性の強い作品だ。

そのスラムダンクの単行本が、先日ふらっと入ったラーメン屋さんにあったので、久しぶりにパラパラと読んでみた。そうしたら、この一年自分が感じてきたことと、スラムダンクのストーリーの間にいくつも共通点があるではないか。やはりスラムダンクは人生のバイブルだと再確認し、文章にしておこうと思った次第だ。以下、スラムダンクの知識を前提として話を進めるが、スラムダンク未読者が、このエントリ読了後に漫喫に直行してくれれば本望だ。

チームにとって経験も才能も大事

主人公の桜木花道は、正直天才である。恵まれた体格と身体能力も活かし、強烈なリバウンドと、一瞬でゲームの流れを変える超人的なプレーで、湘北にとってかけがえのない選手に成長する。それもたった4ヶ月足らずである。

ただ花道には決定的に欠けているものがある。バスケの経験だ。これが物語のいたるところで露呈し、その度にチームメートや相手チームの失笑を買うことになる。

実はこの「経験 vs 才能」というのは、スタートアップで人を雇う時に必ず挙がる話だ。自分が雇う側になって思うが、一定の基準を満たし、面接するまでに到る人は、大体2つのタイプに分かれる。(1)経験が豊富で、今までの経験や人脈を活かし、チームを導いてくれる人と(2)経験こそないが、とにかく賢くてやる気があり、どんどん仕事を覚えていくと思える人である。言わずもがなだが、これは決して二律背反のものではない。経験が豊富で非常に賢く、やる気に満ちあふれている人というのも、ごく稀にいて、そういう人は全力で雇いにいく。が、そういう人はそうしょっちゅうはいないので、現実問題として、ある程度相互排他で考えなくてはいけない。

ではどちらを重視するべきなのか?

雇用に絶対的な答えなどないのだが、組織全体として、(1)と(2)をバランスよく考慮することが重要だと感じている。スラムダンクで言えば、花道が5人いてもチームとして成り立たないし、かといって経験が絶対というわけではない(高校3年生がずらっと並んだ翔陽が湘北に負けたのは、一種のメタファーだと思う)。経験が豊富な人が、やる気とポテンシャルのある人を正しい方向に導くことで、素晴らしい仕事が生まれるというのが、ぼく自身の今時点でのセオリーだ。

得意分野で補完しあう

スタートアップでは、常にやらなくてはいけない仕事が何かある。そして特に立ち上げの時期は、今、この瞬間に時間が空いている人が、やれることをやるというのが、基本的なワークフローだ。それこそ全員オフェンス・全員ディフェンスである。

ただ、そうやって一丸となってやっているうちに、誰が何が得意で、何が不得意なのか、わかってくる。そして、自然と仕事の分担が始まるのだ。これは、「エンジニアはコードを書く」、「CEOは資金調達とビジョンを考える」とかいう役割的なものだけではない。チームのコミュニケーションの齟齬にすぐ気づき、ボタンの掛け違いを素早く修正できる人。言いにくいことや、難しい決断を切り出せる人。とにかく最初の一歩を踏み出す行動力のある人。実務より少し高いレベルでの、メタなスキルという意味でも、人によって得意分野は違い、それが補完しあうことで、1足す1が3になるのだ。

得意分野を補完しあうという意味では、湘北もそうだ。ぼくが書くよりも、安西先生が言った方が説得力があるので、そのまま引用する

—桜木君がこのチームにリバウンドとガッツを加えてくれた
—宮城君がスピードと感性を
—三井君は知性ととっておきの飛び道具を
—流川君は爆発力と勝利への意思を
—赤木君と木暮君がずっと支えてきた土台の上に、これだけのものが加わった
—それが湘北だ

(´;ω;`)ブワっ

湘北がスタートアップならば、赤木と小暮はさしずめ共同創業者だ。そして、彼らの元に、まったくタイプは違うが、それぞれの得意分野で一流のプレーヤーが集まったことで、無名の湘北は爆発的に強くなったのだ。

成功しているスタートアップを見ると、スキルという意味では非常に多様なチームが多い(逆に価値観や目線は、一様的である方が遥かにはかどると思う)。

表から見えるスタメンだけがチームじゃない

スラダンで湘北というと、真っ先に思い浮かぶのはスタメンの5人である。だが、表舞台に立つスタメンだけがチームではない。赤木の盟友である木暮や、角田・潮崎・安田の2年生トリオ、マネージャーの彩子など、練習を裏で支えたり、スタメンが怪我で倒れた時に、懸命に彼らの穴を埋めるべくプレーをしている人たちがいる。そして、彼らを纏めあげ、ここぞという場面で適切な指示を出す安西先生も忘れてはならない。全員ふくめてチーム湘北なのだ。

Slamdunk

これはスタートアップについても言える。FacebookだとMark Zuckerberg、GoogleだとLarry PageとSergey Brinといった感じに、会社の顔となる人たち(多くの場合創業者)がいるが、彼らの裏には、多大な貢献をしつつ、内部では高く評価されていても、全くメディアに名前が挙がらない人たちというのが少なからずいる(さしずめFacebookならJeff Rothschild、GoogleならCraig Silversteinなどだろうか)。よくよく考えてみれば当たり前のことなのだが、お客さんのサポートに丁寧に応対したり、地道にソフトウェアの品質を支える同僚をみて、つくづく外から見えることが全てではないと思い知らされている。

ゴールは違えど目線は一緒

実質的に物語の最後の試合となる対山王高校戦の終盤に、こんなシーンがある。

Slamdunk

今まで一緒に頑張ってきてくれたチームメートに、キャプテンの赤木が感謝するのだが、流石は問題児軍団、一筋縄の反応ではない。お前のためにやってるんじゃない、自分のためだと、口を揃えて言うのだ。そして次のページで、何がなんでも山王に勝つという意思確認をし、ゲームに戻ることになる。

キャプテンゴリを慕う彼らの単なる照れ隠しかもしれないが、ここにはスタートアップについてあまり語られない「働くことのモチベーション」の真理が見え隠れする。

常日頃かんじることだが、全く同じ動機で同じスタートアップで働いている人はいない。ある人にとってはその会社のプロダクトが死ぬほど面白いのかもしれないし、ある人にとってはチームメートが全てなのかもしれない。上昇しつつある会社で一山当てたいという人もいれば、長期的なキャリアプランの一環として考えている人もいるだろう。

ではなぜそんなに多種多様なゴールを持った人たちが、同じ会社で、目線を合わせて死ぬ気で働けるのか。それは全員にとって、今のスタートアップで成功して勝つことが、各々のゴールを達成する近道だからだ。

スタートアップが成功すれば、株の配当という金銭的な報酬は勿論のこと、様々なゴールが近づいてくる。起業家肌の人間だったら、この会社で成功したことで、次の会社の資金調達が何倍も楽になる。投資家になりたい人なら、資金もさることながら、今のスタートアップでの成功は、なかなか仲間入りできない投資家のネットワークへの切符となりえる。そこまで金や権力に興味がない人でも、それ相応の貯金ができれば、金銭的な理由に縛られることなく、好きな仕事を選んで残りの人生を謳歌できる。また、多くの人にとっては、「あの成功したスタートアップの早期社員」という肩書きは、キャリアアップに直につながる。

成功の最大の副産物は、その先にある人生のオプションだと思う。

以前Zuckerbergが、「会社を作っていくということは、集団を統制し、偉大なことを成し遂げる最良の方法だということに、ある日気がついた」と言っていて、当時はピンとこなかったのだが、今は言いたいことがよくわかる。そして、どうやって目的の違う人たちの目線(勝つ!)を合わせる[2]かが、スタートアップの成功のカギを握っていると確信している。


久しぶりに長々と書いてしまったが、要はスラムダンク最高という話。そして、貴重な人生経験をさせてくれている同僚たちに感謝したい。

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  1. 参照。ちなみに僕はこの単語の意味を、今の会社に入るまで知らなかった。
  2. これを、Wantedlyの仲さんは「チームの脳みそをひとつにする」と表現していた。

2013-06-22