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どっきり合コン

先日、東京に行った時のことである。

10時間強のフライトで疲れた体と、10日分の荷物が入ったスーツケース[1]を引きずりながら、ホテルがある池袋に向かうべく、羽田空港からモノレールに乗り、浜松町で山の手線に乗り換えた。

1秒でも早くチェックインして寝たいのだが、ドアの真上のディスプレイに映し出される到着時間の目安を表示した図を見ると、あと30分ほどかかるようだ。そのままディスプレイを凝視していても発狂するだけなので、視線を落とし、これ以上疲れないようにぼーっと待つことにした。

—この合コン企画、まじ面白いと思わねw
—ゴリおまえ本気か。

男2人の声が左前方1メートルくらいから聞こえた。「合コン」という単語と、スラムダンクを連想させる「ゴリ」という呼び名に注意を惹かれ、つい目を開けてそちらの方を見てしまった。ゴリと呼ばれた男は、顔だけゴリラで、体格は小さい。身長は170センチもないだろう。灰色のツイード生地のキャスケットを被り、黒ぶち眼鏡をかけている。古着の黒いジャケットはしっかりボタンが留めてあり、くるぶしまで折った黒っぽいジーパンと、赤いローファーを履いている。プチゴリラなりのお洒落なんだろう。もう1人の男の方が心持ち背が高いだろうか。薄いグレーの地味なジャンパーにチノパンという出で立ちで、オードリーの若林とほっしゃん。を足して2で割ったような顔をしている。要は全て薄い感じ。

—いや絶対ビビるよな。
—そりゃそうだよ、俺がその場にいたらすげービックリするよ。
—でもな、意外とわかんないと思うよ。

2人とも、まるで担任の先生にイタズラをしようと目論む中学生の悪ガキみたいな顔をしている。

—てかゴリ、向こうの了承は得てんの?
—ああ結構乗り気だったよ。あ、でも。
—あ、でも?
—シラフだったら大丈夫だけど、お酒が入ると自信ないって。地がでちゃうかもって。

それを聞いたほっしゃん若林が肩を上下に微振動させて笑う。

—地がでちゃう、かー
—結構大丈夫だと思うんだけどな。4人中3人は正直わかんないぜ。
—ほんとかよー
—ほんとだよ。その3人のうちの1人なんか梨花にそっくりだぞ。
—へぇ、梨花。り・ん・か。
—てか意外とさ、1人くらい女っぽくない方が騙されんじゃね?
—自己紹介した時に、実は女性陣1人だけなんか違いませんか的な!
—そうそう!
—でもってさ、そうなんです、アタシ実はみたいな!
—でもってそこで安心するってやつね。
—残り3人は流石に女の子でしょって。
—それでガチで3人にアタックしてお持ち帰りとかなったらウケるな。
—ウケるな。
—ビックリだろうな。
—ビックリだろうな。
—いやー楽しみ。

趣味の悪い冗談のような気もしたが、オネエたちとしても、女性に見間違われてアタックされるのは、まんざら悪い気分はしないのかもしれない。

—じゃあ日にち決めよう。
—おう、おれ何人か声かける。いつがいい。
—彼女たち、日曜しか空いてないんだよな。
—大丈夫だよ。世の中だいたい日曜は休みだよ。
—じゃあ今週の日曜ね。
—うっす。
—じゃあ俺ここだからおつかれー
—おつかれー

神田でゴリが降りると、ほっしゃん若林の顔からさっと笑いが消えた。

まだ神田である。池袋とか遠過ぎだと思いながら僕はふたたび目を閉じた。


  1. 容積にして荷物の50%は、従姉妹に頼まれていたプラスチック製のクラリネットだったりする。

2013-04-18