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走れfluentd

fluentdというソフトウェアがある。読者の多くは聞いたこともないソフトウェアだろう。そりゃそうだ。AndroidとかiOSとかWindowsのように、消費者の目に毎日さらされるものとは違い、日夜静かにデータセンターで動いているソフトウェアだ。

このfluentdは、もともと古橋貞之くんが、自分がはじめた会社のサービスの一部で必要となり書いたものだが、この1年半ほどで瞬く間に広まり、今では日本中のウェブサービスで導入されている。どのくらい広まっているのかと言うと、もし読者が今日

したなら、どこかでfluentdの恩恵を受けているということになる。

ちなみにこの古橋くん、ゆとり世代のダメダメなピチピチな25歳の若者で、どこの会社にも新卒入社することなくシリコンバレーで起業している。

ここまで書くと、もう感動サクセスストーリーまであと一歩である。

25歳の青年が生み出したソフトウェアが、1年ちょっとで日本のいたるウェブサービスで導入され、海外でも積極的に使われている。ソフトウェアは国境も年齢も超える!天才プログラマー古橋すげえ!

だがこのサクセスストーリーには大きな問題がある。間違っているのだ。

もちろん古橋くんは天才ハッカーだと思うし、fluentdを発案・実装したのは彼である。そして今でも、fluentdの開発の大部分は、彼の手に依っている。だが 、fluentdがここまで流行ったのは、古橋くん以外の人の力によるところが大きい。

fluentdの話をする上で欠かせない事実は、オープンソースであるということである。オープンソースというのは、料理で言えばレシピを公開することに似ている。中身のどこがどうなっているかを、誰にもおもねることも、お金を払うこともなく吟味することができ、自分の用途にあったかたちで、改変できるわけだ。

オープンソースの仕組みは、一言ではなかなか言い表せないのだが、[2]その特徴のひとつが、クローズソースの商用ソフトウェアに比べ、他のプログラマーによる導入の敷居がぐっと下がることだ。これは「ウィンドウズみたいにお金を取ろうとしないのって素敵」みたいな理想論では必ずしもない。もっと現実的な問題として、自分で中身を調べて、必要に応じて改良できるというのは、プログラマーにとって大変魅力的なのだ。また、オープンソースの世界では、そうして加えた変更を公開する人が多く、これも「みんなのためにソフトウェアを改良しよう」というボランティア精神というよりも(勿論すこしはそういう気持ちもあるだろうけど)、「俺/私のアイデアすごいでしょ!みてみてみて...っおい見ろよ!」という承認欲求によるところの方が大きいというのが、筆者の見解である。

いずれにせよ、オープンソースのソフトウェアは、そうではないソフトウェアよりも、多くの人の参加を促す力がある。そしてfluentdは、その力を非常に上手に使ったソフトウェアだと思う。

例えばNHN Japan LINE株式会社の@tagomorisさんは、誰よりもfluentdの啓蒙活動をしているし、アレな会社で一般的なイケメンをやっている@repeatedlyの書いたプラグインは、14000回以上ダウンロードされている。とある急成長ベンチャーの共同創業者の@yoshi_kenさんや、アイドルの追っかけクックパッド技術者の@hotchpotchさん等々、日々の業務上ではあまり接点がない人たちが、fluentdを通して緩くだが繋がっているというのは、よく考えるとすごいことだ。

fluentdへの貢献は、技術的なものばかりではない。例えば、fluentdのドキュメンテーションは、@kzk_mover@hkmurakamiがほぼ100%書いている。ドキュメンテーションというのは、いわゆる取扱説明書なのだが、fluentdは多くの人によって日々手が加えられているので、取扱説明書もそれにあわせてアップデートされていないと、新しいユーザーが混乱することになり、普及の妨げとなる。ドキュメンテーションの整備というのは、地味だが重要な仕事なのだ。

こうして所属先も職種も目的も違う人たちのアジェンダが上手くフィットすることにより、fluentdは広まってきたわけで、ぼくはそこに不思議さに似た畏敬の念を抱いている。古橋すげえとか、つけめんイケメンとか、タゴモリブログ1行に文字大杉というよりも、fluentdすげえである。

ここまで話したところで、先ほどのサクセスストーリーに戻ると、より「正しい」サクセスストーリーの草稿はこんな感じになる。

25歳の青年が生み出したソフトウェアが、日本中のハッカーたちに評価され、各々が改良を加え、それをコミュニティに還元してきた。その結果うまくネットワーク効果が働き、1年ちょっとのうちに、あらゆる日本のウェブサービスの裏側で使われるようになり、今こうやってこのブログを読んでいる間にも、ウン億行というデータがfluentdの中を流れている。そして今日も、世界のいたるところで[3]fluentdをより良いソフトウェアに昇華させるべく、コツコツと改良が加えられている。

先のバージョンに比べると、少しリアルすぎて面白くないのかもしれないが、オープンソース信者のぼくとしては、こちらのバージョンの方が何倍も胸熱なのだ。

走れfluentd。次は世界制覇でござる。


  1. すいません、これ僕です。
  2. オープンソースに関する政治経済学的な視点からの分析には、Steven Weberのこの本を薦める。
  3. @hkmurakamiはさっきもドキュメンテーション直していたけど、おそらくカリフォルニアの山の中でひっそりとやったに違いない。

2013-02-14