2011-11-24
10年という短期間で英語をマスターする方法
quippedにはあんまり役に立つハウツーが出てこない。というのも筆者があんまりハウツーを知らないからだ。ただ英語に関しては12年間、第二言語として勉強してきたので、少しはハウツー的な話ができるかなと思って書いてみた。
題して「10年という短期間で英語をマスターする方法」だ。
長いので目次:
序
3年前プログラミングを覚え始めた時に、Peter Norvigの10年間でプログラミングを独習する方法という記事を読み、深く感銘を受けた。NorvigはグーグルでDirector of Researchをしている著名なコンピューターサイエンティストだ。記事をざっくり要約すると「近道はない」なのだが、いくつか具体的な指摘もされている。
今回のぼくのハウツーも似たようなものだ。「10年なんて長過ぎる」「あと10年も生きないだろう」という人には向いていない。個人的には10年間というのは、外国語の習得に要する時間としては、そこまで長くないと考えている。言語というのはフクザツなもので、そのうえ読む・書く・話す・聞くの4つ全てができるようにならなくてはならない(まあ表記法のない言語もあるけれど)。そう何ヶ月とか数年で習得できる人は余程頭が良いのだろう。
「お前に英語学習法を語る資格があるのか」と思う人もいるだろう。一応14歳の時に渡米してから12年経つが、「そんな英語圏に何十年も住んでいても英語ができないやつなんて沢山いるぞ」と言われてしまえばそれまでだ。英検もTOEICも受けたことないし、どうやって自分の英語力を裏付けしようかなと困ってたのだが、昔一つだけ英語の資格試験を受けたことを思い出した。
TOEFLだ。高校時代に大学受験に必要だということで一度受けたのだ。渡米3年目でスコアは285/300だったと思う。これは今のシステムでは116−7点らしい。110点出ると日本からハーバードビジネススクールの足切りに通るそうだから、それなりにいいスコアなんだろう。まあ英語に関して僕の言うことは、そんなに胡散臭くないよってことだ。
ということで本題に。読む・書く・話す・聞くの4つに分け、どうやって10年間を費やすのが効果的か説明したい。
読む
"Read, read, read. Read everything --trash, classics, good and bad, and see how they do it." --William Faulkner
Year 1:
トートロジーになるが、読めるようになるには読むしかない。しかし、ここで当たり前の問題が発生する。そう、最初は読めないのだ。文法も知らなければ単語も知らない。何にも知らない状態で読めるわけがない。ということで、準備するものが2つある。
- 英語の文法書
- 英和辞書
どんな文法書でも、間違ったことが書いてなければなんでもいいと思う。ぼくは「英文法詳解」という本を重点的に読んだ気がする。
ここで大事なのは、日本語で書かれた英語の文法書を読んで、きちんと英文法を理解することだ。いきなり英語で本を読もうとか、最初から英英辞典を使えなんて話を聞くが、信用してはいけない。そんなことをしても、基本的な理解が日本語で出来ていない限りちゃんと理解はできないので意味がない。英英辞書をひいても、定義に使われている言葉も意味がわからないので、きりがない。単語に関しては、この時点で難しい単語を知る必要はない。それよりも過去形とか過去完了形といった動詞の変化をきちんと抑えることが大事だ。最初にどれだけきちんと英文法を理解するかが、後の上達に大きく関わってくる。
Year 2-3:
少しずつ英語を読みはじめる。ここで大事なのは、いきなり長い小説に挑戦したりはせず、がんばれば1時間以内に読み切れるものに焦点を当てることと、毎日何かを英語で読むことだ。いきなり長い小説を読んでも理解できず、やる気がそがれるだけだ。今ではネットには沢山いろいろな文章が落ちている。新聞記事や雑誌記事がオススメだ。個人的にはThe Economistが、記事が短くまとまっていて良いと思うが、一番大事なのは興味を失わないことなので、自分が面白いと思うものを選ぶといい。とにかく書いてあることが、ある程度理解できることを目標にする。わからない単語があっても、大体の意味がわかっていると思うのなら、あえて意味を調べなくてもよいと思う。
Year 4-8:
Year 2-3で毎日英語を読んでいれば、それなりに文章が読めるようになっているはずだ。ここで2つバリエーションを加える。数日から数ヶ月かかる本を英語で読み始めることと、多様なジャンル・著者の本を読み始めることだ。前者は、英語を長時間読める体力をつけるためで、後者は様々なスタイルの英語に触れるためだ。これは、できればYear 2-3の「短めの文章を読むこと」と平行してやってほしい。平均して1日2−3時間は英語を読むことが目安だ。
Year 9-10 (and beyond):
ここまでくれば相当英語は読めるようになっているはずだ。と同時に実は一番上達が感じられない時期でもある。ここでやるべきなのはとてもシンプルだけど面倒くさいことで、わからない単語は全て辞書で調べるだ。予定通りなら、読解力は平均のネイティブの人と同程度になっていると思う。目標とするのは「ネイティブの人も感心する読解力」で、Year 4-8の読書は継続するべきなのは言うまでもない。
書く
"I write for my pleasure, but publish for money." -- Vladimir Nabokov.
Year 1
この段階では、自分でオリジナルに何を書いても間違えることになるので、意味がない。それよりも正しい文章を書き写す。正直、文章を自分で書くことにはそこまで力を入れる必要はない。
Year 2-3
少しずつ文章を書き始める。この時点で、文法や言葉の使い方はムチャクチャかもしれないが、一応英語で文章を構築することができるところまでは来ているはずだ。とにかくなんでもいいから英語で書いてみる。これにはいくつか手段があって
- フォーラムに参加する。プログラマーだったらオープンソースのメーリスに参加したりするのもよいかもしれない。
- 英語でIMする。別にFacebookのメッセンジャーでもいいが、短くてもヘタクソでもいいから英語を書いてみることだ。
Year 4-6
もちろん下手な文章を書いてばかりでは英語は上手くならない。(1)訂正された時にイヤな顔をせずに直すのは言うまでもないが、(2)自分から進んで自分の文章と他の人が書いた文章を比べることだ。実は(1)ができない人がものすごい多い。英語に限ったことではないが、間違いを指摘した時に素直な反応ができないと、誰も間違いを指摘してくれなくなくなる。誰も間違いを指摘してくれなくなると、その分正しいフィードバックが減り、初心者の英語で終わる可能性が高くなる。仮に(1)を満たしたとしても、大部分の文法や言い回しの間違いは、自分で気がつかなくては一生直らない。これは話すにも言えることだが、会話ではある程度ごまかしが利くのに比べ、文章ではハッキリとボロが出る。この時期になったら「この表現で正しいのか」「ここは冠詞が必要なのか」「この前置詞で正しいのか」といったことを常に心配するべきだ。
Year 7-10 (and beyond)
きちんとした主張のある文章を定期的に書くようにする。ブログでもいいし、最近ではQuoraという質の高いフォーラムもある。ここで大事なのは「きちんとした主張があること」と「定期的」であることだ。これは英語に限ったことではないけれど、文章を書くというのはそうカンタンなことではない。とにかく沢山文章を書き、いろいろな人からフィードバックをもらうことで文章は段々上手になっていく。英語の作文に関しては、Strunk & Whiteの"The Elements of Style"を参考書としてオススメする。英語で文章を書く上でのヒントやコツがコンパクトに100ページほどにまとめられていて、スティーブンキングなどの数多くの作家が愛用してきた本だ。
なにごともそうだが、とにかく手を動かしてみないと始まらないので、とにかく沢山文章を書くしかない。
聞く
"I like to listen. I have learned a great deal from listening carefully. Most people never listen." --Ernest Hemingway
Year 1-2
もちろん最初は何を聞いてもわからないだろう。ぼくもそうだった。正直リスニングにはコツもクソもなく、ひたすら聞いて慣れるしかないのだが、優先順序というものはある。ラップの歌詞がわからなくても生活には困らないが、警察官の言うことがわからなかったら牢屋に行きかねない。ということで、自分の中で優先順位をはっきりさせることが大事だ。細かい意味やニュアンスよりも、最初は主旨を理解することに集中しよう。
Year 3-4
とにかく何でもいいから聞く。動画は画像がある分わかりやすい。YouTubeで動画を見るのもいいし、TEDなどもよい。演説やプレゼン、スタンドアップのビデオなどで気に入ったものがあったら何度も見るのもいいだろう。一つ効果的なのは英語の字幕で映画を見ることだ。すると言葉と発音の間で対応づけができるので、字幕なしで映画を見るよりはタメになる。
Year 5-10 (and beyond)
同じことを続行する。ただこのあたりになってくると語彙も豊富になっていると思うので、自分の中で発音を整理していくとよい。言い忘れたが、辞書を引く際には発音も一緒に覚えるようにすると、二度手間にならない。例えばregulatory/derogatory/mandatory/respiratory/conciliatoryの"tory"は全て同じ発音だ。でもperfunctoryの"tory"は発音が少し違ったりするので、ぴったり体系的に説明できるわけではないが、かなりのところまで整理できるはずだ。発音が頭の中で整理されていると、話すのも大分楽になる。
リスニングはとにかく大変である。筆者も今年、滞米12年目にして、はじめてラジオで流れてくる音楽の歌詞が大方わかるようになった。気長にがんばってほしい。
話す
"At the stroke of the midnight hour, when the world sleeps, India will awake to life and freedom. A moment comes, which comes but rarely in history, when we step out from the old to the new, when an age ends, and when the soul of a nation, long suppressed, finds utterance." -- Jawaharlal Nehru
Year 1-2
とにかく、まず恥を捨てるところから始める。なんだって練習しなくては始まらない。ムチャクチャでもいいからとにかく話そう。最近では英会話教室やラングリッチといった実際に相手と英語を話す機会が豊富にある。十分の活用しよう。ただ、英会話教室にしてもラングリッチにしても、そう毎日何時間も相手が付き合ってくれるわけではない。仮に付き合ってくれたとしてもカネがかかる。そこでぼくが母親から習った秘伝の練習法を伝授しよう。
英語でひたすら独り言!
ふざけるなと思うかもしれないが、これは実に効果的な練習方法だ。雑誌や本を音読するのもいいし、演説の一部をひたすら繰り返すのもいい。ぼくが昔よくやっていたのは、インタビューされたふりをして、自分の意見を声に出して言ってみるというやつだ。とにかく声に出してみることで、話すという物理的な行為と、思うという抽象的な行為を結びつけることができる。独り言はパートナーがいなくてもできるし、公の場でやらない限り(これをやってしまうとキチガイだと思われる)誰にも迷惑をかけることはない。ぼくも渡米してから1年ほどは独り言に費やした時間が、実際に会話をした時間をはるかに凌駕していた気がする。
Year 3-5
このあたりでは、まだなかなかリアルタイムで英語を話すというのは難しいことと思う。そこでとっておきの練習法を再び伝授しよう。
英語しか通じないけど大好きな友達をつくる!
人間は基本的に臆病で怠け者なので、必要がない限り新しい言葉なんかは覚えない。そこでどうするか?どうしても相手とコミュニケーションをとりたいと思うような環境をつくるのだ。ぼくの場合、高校の1番の親友が女の子だったことが、英語の上達に大きく寄与した気がする。男女の友達で継続的にできることなんて、おしゃぶりおしゃべりくらいだ。ぼくは高校時代さんざん彼女と話をしたし、違う大学に行った後も、数ヶ月に一回数時間電話で話をしていた。ラッキーだったのは、彼女が、ぼくの自尊心をあまり傷つけないかたちで英語を教えてくれたことだ。例えば、ぼくの単語の発音が間違っていたら、その場で「その発音おかしいw」と指摘するのではなく、その後の会話で同じ単語を正しい発音で使ったりして、ぼく自身がミスに気がつくように仕向けてくれたりした。今英語が話せるのは、彼女に負うところが大きい。
Year 6-10 (and beyond)
Year 1-5を有意義に過ごせば、一応リアルタイムで会話ができるようになっていることと思う。ここからは、表現力を磨き、より豊かな会話ができるように努力することになる。最初の5年は、次の5年の基礎だと思ってほしい。いくつか心がけることを書いておこう。ここにあることは、英語を書くうえでも参考になるはずだ。
- どんどん覚えた単語や言い回しを使う。本で学んだ単語や、ラジオで聞いた慣用的な言い回しを積極的に会話に盛り込もう。もちろん誤用することもあるだろうし、相手によっては、誤用したことをからかう人もいるかもしれない。そこは怒りをぐっとこらえて、訂正してくれたことに素直に感謝しよう。これを繰り返しているうちに、自然と表現の幅が広がっていき、気がつくとアホなネイティブよりも良質な英語が話せるようになっている。
- 話の上手な人の話し方を分析し、どこがどう上手なのか考える。話が上手な人というのは、なんらかの理由があるはずだ。「あの比喩表現上手だな」とか「あの動詞はこのシチュエーションを表すのにドンピシャだな」みたいに気がついたことを書き留めておこう。身近に英語が上手な人がいない場合には、YouTubeなどで探すといい。個人的にはCharlie Roseのインタビューなんかは面白い。先出のTEDもオススメだ。
- 独り言はいつまで経っても効果的。よくプレゼンするなら何回も自分で練習しろというが、あれもよく考えれば独り言だ。ただYear 1のとにかく声に出すことに慣れるための独り言とは違い、今度の独り言は、表現力を磨くためのエチュードだ。ぼくも未だに声に出して本を読むこともあるし、1人で運転している時に、声に出して考えをまとめたりしている。最近は日本語がヘタクソになってきたので、日本語でも実はやっているw
結論
近道はない。本当にない。残念だけどない。多くの日本人が英語が下手なのは、どれだけ膨大な時間がかかるかをわかっておらず、Year 3-4あたりで停滞してしまい、なおかつそれが限界だと信じているからだ。ここで言うYear 3-4というのは、「英語を10年でマスターすると仮定した時の3−4年目あたりの習熟度」という意味だ。要は、「できないわけじゃないけど、できるわけでもない」レベルである。特に、大人になってからビジネススクールなどで海外に出た人のほとんどはYear 3-4で停滞している。そういった人たちが(1)さも英語ができるようなふりをしたり、(2)英語ができるなんてのは大したスキルではないとうそぶいたりしていることは、日本で英語を学んでいる人たちに誤った信号を発信している。
でも安心してほしい。ここに書いてあることを忠実に10年間続けたら、ネイティブも舌を巻く英語使いに絶対になれる。カンタンではないけれど、フカノウでもない。