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ウチら全員見た目は同じ

Vincent Chinという人がいる。1982年6月19日、アメリカの自動車産業の中心地デトロイトで撲殺された人だ。

Chinを撲殺したのは、クライスラーの社員のRonald Ebensと、その継息子であるMichael Nitzだ。婚前パーティーでハメを外し友人たちとストリップクラブに来ていたChinは、その場にいたEbensと些細なことで口論となった。Ebensが発した「お前らのせいで仕事がなくなったんだ」という発言から殴り合いの喧嘩になり、最終的にはNitzの協力のもとEbensが野球のバットでChinを殴り殺すことになる。

当初は殺人の容疑で逮捕されたEbensとNitzだが、その後罪は過失致死と軽くなり、最終的には投獄されることなく執行猶予と罰金のみという判決に到ってしまう。この判決の軽さが被害者と加害者の人種に起因していたのではないかと波紋を呼び、30年経った今でも語り継がれている事件である。

先ほど述べた「お前らのせいで仕事がなくなったんだ」という表現だが、この背景には1980年代初頭、日本の自動車会社が台頭し、フォードや、Ebensが働いていたクライスラーを脅かす存在となっていたという背景がある。Ebensが、Chinのことを日本人あるいは日系アメリカ人と勘違いをしたというのが有力な説となっている。

"We all look the same"—ウチら全員見た目は同じ—アジア系アメリカ人たちが、半ば自嘲的に使う表現である。長年アメリカ社会にとけ込んで生活をしていれば、否が応でも気づくことであるが、アメリカ社会において、どのアジア人であるかという問題は、アジア系か否かに比べれば誤差のようなものでしかない。僕も最初渡米した時には、自分は日本人だという意識が強くあったが、5年、10年と時間を重ねるにつれ、日本人・日系アメリカ人であるという意識は徐々に薄れ、アジア系アメリカ人だと認識するようになってきた。

この意識の変化には、個人的な経験が大きく寄与していると思う。日本にいると、お隣韓国や台湾、中国との文化の差を如実に感じることと思う。実際ぼくも日本に住んでいた時はそうだった。でもアメリカで生活していると、白人や黒人、ヒスパニックの価値観に比べると、自分の価値観が他のアジア系の人たちの価値観に近いことを何度も感じるようになった。食べ物から家族との距離感にいたるまで、全く同じではないけれど、なんとなく近いのだ。ぼく自身意識的にアジア系アメリカ人とつるもうも思ったことはないし、白人や黒人の友達もいるが、高校でも大学でも最も仲が良かった友達はアジア人だったというのは、単なる偶然ではないと思う。

筆者は今年27歳、Chinが死んだ年齢になる。もう30年か、まだ30年か。自分はアジア系アメリカ人なのか日系アメリカ人なのか。思うところは多々ある。

2012-06-25