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ナニ科学か知ったこっちゃないが、数学って意外と役に立つよ

今、奇跡が起きている。ほんの少しだが、数学がはてブっているのだ。

「数学は自然科学ではなく人文学だ」と主張するこのブログ記事に対して、@dankogaiが、なんかわからんけどgccを引き合いに出してツッコんでいたりして、数学史上まれにみる人気だ。

まあ僕がこんなに興奮する[1]には理由がある。何を隠そう、ぼくは数学科卒だ。

若気の至りとでもいうか、数学者になぜか憧れた時期があり、 大学の頃はそれなりに頑張って数学を勉強していた。後に自分に大して素養がないことと、恐らくそこまで数学に対して情熱がなかったということを、博士課程に軒並み落ち、さらにそれに対してあまり落胆したなかったという事実をもって学ぶのだが、大学の4年間は、それ相応に数学は学んだつもりだ。[2]

身の上話は置いておいて、元記事も、弾さんの記事も読んだが、イマイチ言いたいことがわからないし、第一世の中の99.99%の人にとって、数学がナニ科学に分類されるかなど、中澤裕子が既婚だということくらいどうでもいい。それよりも、昔からよく知り合いに聞かれるのが、「数学って何の役に立つの」ということだ。[3]ということで、個人的な体験を踏まえて、数学(算数ではないぞ)が何の役に立つのかちょっとまとめてみる。

1. 構造的に物事を捉える訓練と問題解決の訓練

大分前にイギリスの数学者W.T. Gowersが、"The Two Cultures of Mathematics"と題したエッセーの中で、数学者には2タイプの人間がいるという話をしていた。理論構築タイプと、問題解決タイプである。

理論構築タイプは、数学の目的を、理論や枠組みの発展と構築に置いている人たちで、個々の問題の解決(未解決問題の証明など)は、新しい理論や枠組みの副産物だと捉えている人たちだ。それに対して問題解決タイプは、なによりも未解決問題を証明することに重きを置き、その手段として、新しい理論や枠組みを考えている。

断っておくと、この分類は二律背反のものではなく、同じ数学者でも、仕事をしていく中で、理論構築タイプになったり、問題解決タイプになったりする。

少し話が逸れたが、理論構築と問題解決は、数学の2つの柱だ。例えば数学をかじるとすぐ学ぶ群論というものがあるが、これの初歩的な応用として、「五次以上の方程式には代数的解がない(つまり二次方程式みたいな解法がない)」という結果がある。ここでは「群論」というのは理論構築で、「五次以上の方程式には代数的解がない」というのは、それを応用した問題解決である。興味深いのは、実際に大学で数学を学ぶと、まず群論の枠組みを教えられて、そっから「五次以上の方程式には代数的解がない」ことの証明を教えられるんだが、歴史的には逆で、群論は、「五次以上の方程式には代数的解がない」といった類いの問題を解くための枠組みとして編み出されたものだ。

まあこんな風に数学を勉強していると、否が応でも、理論構築と問題解決が補完関係にあり、どちらも重要であるという考え方を身につける。これって実は仕事にすごい役立つ考え方だったりする。

まあいいや、次。

2. 仮定を疑うようになる

数学というのは、仮定を足したり引いたりして、どの仮定が本当に必要で、どの仮定がいらないのかみたいな話を延々と考える学問だ。これを数年やっていると、生活のあらゆることに対して、「仮定は何か」「はたしてその仮定は必要なのか」と言ったことを考えるようになる。

まあやり過ぎると問題だが、仮定を疑う力というのは、コミュニケーションを取る上で非常に役に立つ。コミュニケーションの齟齬というのは、多くの場合、認識や仮定が共有できていないことに起因するので、メール1本書くにしても、「このメールは何を仮定しているのか」といったことを意識せずに考える訓練ができるようになる...はずだ。

え、お前のメールはムチャクチャだって?まあ、そんなに数学できなかったですからね、僕。

3. 他の学問を理論的に把握するのはラク

こんなことを言うと方々にぶっ殺されるかもしれないが、数学は、要求される論理的思考能力という点では、どの他のサイエンスよりも圧倒的に難しい(ぼ、僕だけじゃないぞ、Paul Grahamも似た様なこと言ってるぞ!)。

当たり前だが、他の分野には各々の難しさがある。例えば僕は、科学的に物事を考えるというのは苦手らしく、物理も化学も生物学もてんでダメだ。コンピューターサイエンスにしても、ハードウェアの仕組みを正確に把握したり、大規模な並列プログラムを設計するのはラクではない。

ただ、単純に論理的・抽象的思考という一点に関しては、圧倒的に数学が難しいと思う。現に、物理をかじった時に、数学的テクニックでつまずいたことは一度もなかったし(むしろどの法則がどう適用されるのか全くわからんかった)、アルゴリズムの授業で仰々しく動的計画法を教えられた時に、(これって単なる数学的帰納法では)と拍子抜けしたものだ。

どの分野にも応用が利く、基礎的なの思考力がつけられる学問が数学なのかもしれない。


書いた先からこんなこと言うのもなんだが、マユツバだなあ。挫折こそしたが、それなりに数学を勉強して、学士号までいただいてしまったので、正当化するのに必死なだけなのかもしれない。


  1. 嘘です。そんなに興奮してません。
  2. そうやって数学を諦めた後、大学に残ってナンチャッテ修士号をコンピューターサイエンスで取って、いわゆるITの世界に足を踏み入れるんだから、人生ってわかんないね。
  3. 実は数学がどう役に立つかに関しては、弾さんのブログに書いてある「0次の科学」という位置づけが、的を射ているのだが、恐らく彼の議論がわかる人間は数学をちゃんと勉強したことがある人間であり、数学をちゃんと勉強したことがある人間は既に数学の効用を認知しているので、この記述は意味がない気がする。

2013-03-03