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英語上達のヒント?病的になろう!

ごくたまにだが、どうやったら英語がもっと上手になるか聞かれる。以前も書いたように、語学の習得に近道はないとしか言いようがないのだが、最近気がついたことがある。

みんな英語を読んだり聞いたりする時に注意を払わなすぎ。

語学の素晴らしいところは、そこら中に教材が落ちているということだ。カフェで隣に座っているカップルの痴話ゲンカも、プレイボーイのコラムも、はたまたノーベル賞作家のジュンブンガクも、なんらかの言葉によって表現されているわけで、全て教材となり得る。問題は、多くの人は、目の前を過ぎていく活字や、耳に入るおしゃべりをフィルターにかけてしまっていることだ。ということで、実際にぼく自身が英語を読む際に、頭の中を駆け巡っていることを、スローモーションで再現してみたい。

例はなんでもいいのだが、せっかくなので、最近Y Combinator出資のスタートアップCurebitに、ウェブサイトのデザインをパクられた、37signalsのブログから2−3段落抜粋しようと思う。ちなみに37signalsは、シカゴにあるソフトウェア会社で、Ruby on Railsの生みの親がいる会社といえば、ピンとくるかもしれない。以下は、新しい社員を紹介しているブログ記事だ。

Today Matt Kent started at 37signals as the sixth member of our operations team. Previously Matt worked for 10 years(!) at Bravenet as a System Administrator handling application deployment and scaling tasks. Some of Matt’s managers and coworkers used phrases like “backbone of our team” and “a great person, and a fantastic engineer” to describe what working with Matt is like.

Recently Matt was selected as an Opscode MVP for his contributions to Chef not once, not twice, but three times. Less than a day after Matt’s first interview, he resolved both our Chef bug reports endearing him to the entire team. In addition, Matt has experience with multiple data center setups, automated deployment, monitoring, and just about every other area we touch.

まず気になるのは、"at Bravenet as a System Administrator"のところだ。もちろんこれで正しいのだけど、この不定冠詞の"a"は役職の前に必ずつくとは限らない。例えば、"Chief Editor"(編集長)という役柄だと、不定冠詞がないこともあるし("Barack Obama was Chief Editor of the Harvard Law Review")、"Professor"なども、ないことがある("I am Professor of Physics at MIT")。すると、僕は気になるのだ。果たして"System Administrator"の場合、不定冠詞が前につかない使い方ってあるのだろうかと。ググってみると、全くないわけではないが、System Administratorの場合、不定冠詞はつく場合の方が多いようだ。

冠詞の話で言えば、"Recently Matt was selected as an Opscode MVP..."という文章も気になる。MVPっていうのは"Most Valuable Person/Player"のことだから、必ず1人なのではないのではなかろうか。1人だとわかっているなら"the Opescode MVP"の方が正しいのではなかろうか。もちろん、"an Opscode MVP"という表現は間違っていないのだが、このMattさんのように、既にとってしまったMVPに関しては、"the Opscode MVP"の方がしっくりくる気がする。うーんと悩みながら考えるわけだ。「まあこういう時に"an"を使う人もいるんだな」「ひょっとしたら僕の語感が間違っているのかもしれない」と。

同じ文の中で言えば、"Recently"の後に","がないことも気になる。よく短い文章ではカンマを省くことはあるが、この文は、20単語とそんなに短い方ではない。コーマック・マッカーシーのように、あえてカンマを省くというスタイルの作家もいるが、まさか新入社員を紹介するブログ記事で、そんなに気の利いたことは考えないだろう。同じカンマのことでいえば、その次の文の"endearing him to the entire team"の前にもカンマがあるべきに思える。というか、今気がついたが、"both our Chef bug reports"という表現も変だ。"Both"というのは両方という意味だけど、何と何の両方なんだろうか。"two of our Chef bug reports"の方が意味がわかりやすいのではないだろうか。それとも、37signalsのChefに関するバグはきっかり2つということなんだろうか。

最後の文章には"Matt has experience with multiple data center setups, automated deployment, monitoring..."とある。ここで不思議なのは、"automated deployment"も"monitoring"も数えられない名詞として列挙されているのに、"multiple data center setups"だけは複数形になっている。まあ確かにsetupは数えられるのだが、"multiple data center setups"という場合、"one setup"は何のことなんだろう。multiple (data center setups)、つまり"data center setup"というのが一つの名詞で、それを複数やるのか、(multiple data center) setups、つまり、一度に複数のデータセンターをセットアップするセットアップを複数回やるのか、意味が曖昧に聞こえるのだ。なんか変な気もするが、これもありなのかなあと。でも、"Matt has experience with setting up multiple data centers, automated deployment, monitoring..."とした方が、均整が取れているのではないかと思ったり。

信じてもらえないかもしれないが、ぼくが英語で本や雑誌を読んでいる時には、上に挙げたようなことが常に頭の中を巡っている。このことを友人に告げると、決まって「お前暇だな」とか「病的だぞ、それw」とか揶揄されるのだが、いっつも言葉のことを考えているおかげで、渡米から12年経った今も、それ相応に日本語は書けるし、14歳という中途半端な時期に渡米したぼくが、アメリカで丁々発止英語で仕事ができるのは、この病的なまでの言葉に対する意識のおかげのような気がする。

ということで、英語がなかなか上達しないとお嘆きの皆さん。もっと病的に、気持ち悪いほど、コトバに意識を傾けてみると、いいことがあるかもしれない。

2012-01-31